このコーナーでは、当時のランキングやエピソードと共に、「ザ・ベストテン」に出演した歌手のヒット曲を紹介していきます。第14回は1985年12月26日のランキングを紹介。今月のスポットライトは、ノリノリのポップな曲から、女性が共感するバラードまで多くの名曲をヒットさせ、現在も女優として活躍する小泉今日子さんの代表曲「なんてったってアイドル」を取り上げます。
清く正しく美しく… アイドルがアイドルを歌った、革新的楽曲!?
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 小泉今日子は、神奈川県厚木市出身。1981年「スター誕生!」に出場して合格したのをきっかけに、翌年3月21日に「私の16才」でデビュー。デビュー初期は、いわゆる聖子ちゃんカットの髪型で、他の清純派のアイドルと同様の楽曲を歌っていたが、徐々に人気を得るとともにイメージチェンジ。事務所に断りなく、本人の意志で突然髪をショートカットにしたといわれるが、それが大成功。以後「艶姿ナミダ娘」「渚のはいから人魚」「ヤマトナデシコ七変化」など、覚えやすくインパクトのある歌を明るく元気に歌うキュートな女の子、という独自のキャラクターで人気を得ていく。

 「なんてったってアイドル」は、ザ・ベストテンには1985年12月5日に初ランクイン。当時、多数の女性アイドルが活躍し百花繚乱の様相を呈していた中、この年はおニャン子クラブがデビューするなど、アイドルの概念が大きく変わりつつあった。そこへ、ステレオタイプなアイドルのイメージを逆手に取ったような秋元康による詞に、ノリノリの楽曲。アイドルである小泉今日子が自ら「アイドルはやめられない」と歌うという、非常に斬新な曲であった。「イェーイ!」と元気よく繰り返す姿は彼女自身のキャラクターにピッタリ。12月26日には第1位を獲得。年末のNHK紅白歌合戦には前年に続き2回目の出場を果たし、この曲を歌っている。

 本人にとっても、またアイドル歌謡史においても、エポックメイキングな楽曲だったと言える。後年、この曲を歌っていた頃を振り返り、当の本人は「大人が悪ふざけしているな、と思っていた」と語っている。同時に「自分にしか歌えない曲だという自覚もあり、楽しんで歌っていた」とも。自分の立場と役割をきちんと自覚したうえで、人々に夢や元気を与えるアイドルを楽しみながら演じていたのであろう。

 小泉今日子とザ・ベストテンといえば、有名なハプニングがある。86年、枯れ葉が敷き詰められたセットでしっとりと「木枯しに抱かれて」を歌う小泉の前では、数匹の可愛い子犬が戯れていた。ところが歌っている最中、子犬の一匹がウン○を! 小泉は苦笑いしながらも歌い続けたのであった。またある時は、「火事場の馬鹿力」が特技であると紹介され、48kgもあるテレビを持ち上げてみせるなど、アイドルらしからぬ行動も。一方で、自分より後輩の歌手が初出演すると楽屋や舞台裏で声をかけて緊張をほぐしてあげたり、番組の裏方スタッフにも気さくに声をかけたりと、周囲から感謝されることが多かったようだ。今に至るまで、彼女が長く愛され続けている理由が分かる。

 また特筆すべきは、黒柳徹子との信頼関係だ。読書が趣味で、日頃から多くの本を読んでいた彼女。ある時、ザ・ベストテンに出演するにあたり、最近読んだ本を実際にスタジオに並べ、紹介してもらえることになった。しかし事前の打ち合わせで挙げた数冊のうち、一冊だけ本番では外されていた(『チェルノブイリの少年たち』広瀬隆)。CMの間、小泉のところに黒柳がやってきて「今日は紹介できなかったけれど、あなたがそういう本に興味を持つのはとても素敵なことです」と声を掛けてくれたのだという。年齢の離れた自分に対しても、公平に話してくれた黒柳に対して、なんて素敵な人だろう、こういう大人になりたい…と思ったそうだ。

 80年代から、歌手活動と並行して女優としても活躍。数々の映画やドラマに出演、高い評価を受け続けている。2013年のNHKの連続テレビ小説『あまちゃん』ではヒロインの母親を演じ、かつてアイドルを目指していたという役どころでユニークな存在感を示したのは記憶に新しい。

ザ・ベストテン☆エピソード
 スタジオセットには、演出の一部として、犬などの動物が登場することが時々ありました。1980年、五木ひろしの「倖せさがして」がロングヒットした時には、犬好きで知られる五木のために、毎回犬が登場。ある時、プロデューサーが冗談で「歌い終わりに、犬にオシッコさせろ」と命じ、ADが思い付きでとっさに四つんばいになって片足を上げたら、犬が真似て本当にオシッコしたとか。
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