80年代のアイドルシーンを盛り上げた一人、荻野目洋子。その最大のヒット曲が「ダンシング・ヒーロー」だ。85年に発表され、当時のディスコ・ブームにのって大ヒットしていた英国の歌手、アンジー・ゴールドの「Eat You Up」を日本語カバーしたもの。デビュー曲だと思われることも多いが、彼女は84年4月に「未来航海〜Sailing〜」でデビューしており、実は7枚目のシングルである。
「ザ・ベストテン」には、85年12月26日、スポットライトのコーナーに初出演。当時、堀越高校の2年生であった。それまで、同コーナー出演をきっかけにブレイクした歌手は多く、荻野目の場合も、デビュー以前から地道に彼女を支えてきたマネージャーから番組に熱心な売り込みがあったという。年内最後の放送ということで豪華版として放送されたこの日、応援ゲストとして姉である女優・荻野目慶子も駆けつけて見守る中で「ダンシング・ヒーロー」を歌唱した。
ショートカットでボーイッシュな髪型。アップテンポの曲にのせ、全身を使ったキレのある動きは、振り付けというより本格的なダンス。ステップを踏みながらサビでマイクスタンドを傾けて歌う姿は、従来のアイドルとは一線を画すカッコよさがあった。何より、非常に明瞭でハリのある歌声。歌って踊れる実力派アイドルとして視聴者に強く印象づけられた。
「ダンシング・ヒーロー」は年明けすぐ、86年1月9日に9位で初ランクイン。その後最高2位まで登りつめ、計9週ランクインした。86年末の紅白歌合戦に荻野目はこの曲で初出場。紅組トップバッターとして歌った。
当時多くのアイドルが下の名前や愛称で呼ばれていた中、彼女は「荻野目ちゃん」と呼ばれ親しまれた。「六本木純情派」「湾岸太陽族」などがヒットし、番組終了までに12曲がランクイン。2001年に結婚し、現在は3児の母。デビュー30周年である2014年には新アルバムを発売したほか、記念コンサートも開催。テレビ歌番組にも多く出演し、変わらぬキレのダンスと歌声を披露してくれた。
荻野目洋子とザ・ベストテンについて語られる時、必ず珍場面として引き合いに出されるのが86年11月13日、「六本木純情派」が初ランクインした際のこと。ベストテンは、曲のイメージに沿って毎週異なるステージセットが組まれ、凝った演出がなされたことで知られるが、この時、歌う彼女の周りで、前衛的な衣装をまとった全身白塗りの男たちがウネウネと奇怪なダンスを踊ったのである。彼らは暗黒舞踏集団「白虎社」。荻野目は歌うのに必死だったそうだが、その表情には明らかに驚きと苦笑いが。歌の内容とまったく関係がないうえ、アイドルと白塗り集団というあまりにアンバランスな謎の演出。一体何を表現したかったのか…。