作詞家をはじめ、音楽プロデューサー、ミュージシャン、詩人、などなど【作詞】を行う“言葉の達人”たちが独自の作詞論・作詞術を語るこのコーナー。歌詞愛好家のあなたも、プロの作詞家を目指すあなたも、是非ご堪能あれ! 今回は、SPEEDの全楽曲を作詞作曲プロデュース、様々なアーティストの楽曲を手掛けている音楽プロデューサー「伊秩弘将」さんをゲストにお迎え…!
作詞論
 
作詞というのは、詩を書く事とは全く違います。
例え字面でどんなに良い詩が書けても、歌として聴いた人の心に届かなければ、
それは歌詞としては全く意味がないと思っています。
むしろ例え凡庸な言葉の羅列であったとしても、
メロディと一つになって歌になった時に化学反応が起こる歌詞の方が遥に素晴らしい。
[ 伊秩弘将さんに伺いました ]
  • Q1. 歌詞を書くことになった、最初のきっかけを教えてください。

    僕は今でも自分が作詞家だという自覚がなくて、皆さんと同じように街の中で喜怒哀楽、呼吸をしながら、リアルな感情を切り取って歌詞に詰め込んでいる“作曲家”です。

    23歳の頃、そんな自分の描く歌詞を面白いと言ってくれた森高千里さんのプロデューサー・瀬戸さんが、彼女のデビュー曲の歌詞を書くチャンスをくれました。

    だからタイトルは、この業界に入るきっかけを掴んだ自分自身の幕開けと、彼女のデビューを掛け合わせて「NEW SEASON」にしました。

  • Q2. 歌詞を書く時には、どんなところからインスピレーションを得ることが多いですか?

    まず、ひたすらメロとTrackを何回も聴いて、テーマとなる言葉やフレーズを絞り出していきます。

    その過程の中で、時空を超えて16歳に戻ったり、時には女の子の気持ちになって恋に悩んだり、世間からはみだしていた頃のヤンチャな自分を思い出したりする事もあります。

    最近60歳を手前にして、本当に人生において大切なものは何だったのだろうと考えています。いずれそれが、一つの歌になって出て来るでしょうね。

  • Q3. 普段、どのように歌詞を構成していきますか?

    メロディが求めているグルーブ感。例えば、断定メロなのか、語りかけメロなのか、畳み掛けメロなのか、沸き立つグルーブか、まったりな隙間感か、、、そこに、先程羅列したような“REALな気分”を混ぜ合わせていく。そんな臨場感を1番大切にしています。

  • Q4. お気に入りの仕事道具や、作詞の際に必要な環境、場所などがあれば教えてください。

    18歳の頃からずっと変わっていないですが、まずはインスピレーションが湧くまで、カフェやラウンジで大枠のテーマを考えます。そして浮かんできたら、生み出されていく歌詞が街の空気感と混じるように雑踏や喧騒の中へと紛れていきます。そして最終的に歌いやすさ、ハマりなどを意識して語尾や言い回しの変換をします。

  • Q5. ご自身が手掛けた歌詞に関して、今だから言える裏話、エピソードはありますか?

    White Love」は、本当は世の中に出すまでちゃんと受け入れられるか不安でした。それまでずっとパワフルに歌ってきたSPEEDが、メロディも地味で元気じゃないし、でもここで冒険しないと、20代から上の未知な層に広がらないと思いました。

    歌詞に関しては、僕の中で「White Love」は、付き合いたての女の子の半分片想いの歌なんです。彼氏のほうはもしかしたら他に誰かいるかも。でも女の子は本気。

    それまで永遠一人称で歌ってきたSPEEDが、そんな切ない気持ちを胸に秘めながら、この曲の最後に初めて2人称である<あなたのために生きていきたい>と歌っています。 このフレーズは、デビューから1年経って、これからずっと厳しいショービジネスの世界で生きていくぞという、SPEEDの決意表明とも掛け合わせて作りました。

  • Q6. 自分が思う「良い歌詞」とは?

    普段見落とされているようなディテールや、繊細な気持ちの動きが表されている言葉。街鳴りなどで特に意識していないのに、言葉がピーンと立って聞こえてくる歌。凄くひとりよがりな言葉でも、妙に刺さってしまう歌詞。

  • Q7. 「やられた!」と思わされた1曲を教えてください。

    松任谷由実さんの「セシルの週末」。
    あの2コーラスあるかないかの凄く短い歌詞の中に、まるで一本の映画を見たようなストーリーが、ギッシリと詰め込まれているところ。

    不良だった14歳、とっくに愛が冷めて別の部屋で暮らしている両親、“またあの娘、男を引っかけている”と噂している遊び友達、その頃の事を打ち明けると本気で怒ってくれた不思議な人、そんな自分にプロポーズしてくれて変わり始めていく自分、そして素直になった私にきっと驚いてくれると期待する両親への想い。という、一人の少女から大人の女性に至って結婚していくというストーリーのウエディングソングになっています。この主人公の女の子は、実は本物の愛に飢えていたのだと思います。

  • Q8. 歌詞を書く際、よく使う言葉、
         または、使わないように意識している言葉はありますか?

    “夜は明ける 雨は上がる 明日は来る、、、”
    一歩引いて歌詞だけ見ると“そりゃそうだろ”と最近思う。
    これまでついつい沢山使ってしまいました。すみません。

  • Q9. 言葉を届けるために、アーティスト、クリエイターに求められる資質とは?

    出と引きの大切さ。曲を作る上でも僕は大事にしている事ですが、際立たせたいポイントをより立たせる為に、あえて抜くところをつくれるか。短いフレーズに、どれだけダブルミーニングなどを効かせて太い意味を込められるか。

  • Q10. 歌詞を書きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。

    あまりディレクターやクライアントへ寄り過ぎた歌詞を書かない事。
    自分の世界観を見失いがちになる上に、どちらも満足するようなバランスで書けた歌詞は、バランスがいいが故に、はみ出さないから出た後のサプライズも少ない。大事なのはアウトプットした時のパワーだから。

歌 手
矢沢永吉
タイトル
今を生きて
矢沢永吉さんほど“ROCK”という強いイメージとは裏腹に、繊細で、物凄く頭が切れて、超が付くほど真面目な音楽家はいないと思っています。そしてあれだけの波瀾万丈な人生の常に矢面に立って、張って張ってやって来られた。

混じり気のない真水のように、心に深く入ってくる歌や、生み出される素晴らしいメロディを聴いていると、この源は何処から来ているのかなと考えた時に、逆境な時にこそ本当はすがりたい、分かち合いたいという願い。 だけどそれを跳ね除けてパワーに変えて、真実の愛を求めて生きて来られたのだなと勝手に思い巡らさせて頂いて書いたのが、「今を生きて」です。
デビューから2000年に解散するまでのSPEEDの全楽曲を作詞作曲プロデュース。
矢沢永吉が70歳の時にリリースしたアルバムに2曲作詞提供。
森高千里のデビュー曲を作詞提供。
ジェジュン、中島美嘉、観月ありさ、上戸彩etcへ作詞提供。
LiSA、MISIA、KinKi Kids、渡辺美里、森高千里、谷村有美、久宝留理子etcへ
作曲提供。
INFORMATION
今年4月から新たに生まれ変わる星の杜中学校高等学校の校歌を作詞作曲。
自ら発掘プロデュースしている14歳のヴォーカリスト、“Lay”に楽曲提供。
2023年4月12日に初のEP『I’m Believin’』を発売。
その他新たなアーティストへの楽曲提供も今後控えている。
Lay 1st EP
『I’m Believin’』
2023年4月12日発売
DDCZ-2296 ¥1,650(税込)