前月の歌詞検索ランキングから、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて“キラ☆歌”)を発掘しようというこのコーナー。今月は、人気再浮上の楽曲を分析してみた。

  最近、CDランキングを見ていると、何ヶ月も前の楽曲が急浮上してTOP10入りすることが頻繁にある。数年前だったら、「あぁ、この前『Mステ』に出てたからね〜」とか「『SONGS』の特集、凄かったね〜」みたいな口コミと共に納得のいく楽曲由来の上昇だったが、現在では、やれ「CD購入者のみ握手会イベントに参加」だの「LIVEチケット付きCDの追加販売(正確には、もう既に購入してCDは不要となっているが、LIVEチケット欲しさにCDがくっついている状態)」だので、急激に伸びても、それは楽曲が支持されたものとは到底考えられない状況が続いている。(ヒット曲かヒットCDかということについての記事が読売新聞に出ているので、是非ご一読下さい!)無論、モノが売れることで経済が活性化すること自体を否定する気などサラサラないが、もっと楽曲のチカラ、はたまた楽曲の面白さなどが要因となって再注目されているものはないか?と思い、例によって信頼あるこのランキングで見ることにした。
第63回:人気再浮上曲TOP15 (2014年10月:2014年9月のデータより分析)
テーマ
順位
今月
順位
先月
順位
アクセス指数
タイトル
アーティスト
発売日
1位 4 119 100 SAYONARAベイベー 加藤ミリヤ 2008.9.24
2位 12 54 47.4 日々 吉田山田 2013.12.18
3位 13 50 46.3 他人の関係 一青窈 2012.4.18
4位 37 59 31.4 小さな恋のうた MONGOL800 2001.9.16
5位 39 74 30.3 ようかい体操第一 Dream5 2014.4.23
6位 68 100 21.3 Best Friend 西野カナ 2010.2.24
7位 70 112 20.9 日曜日 back number 2012.5.30
8位 71 183 20.6 有心論 RADWIMPS 2006.7.26
9位 74 97 20.2 三日月 絢香 2006.9.27
10位 77 157 19.8 Best Friend Kiroro 2001.6.6
11位 89 144 18.0 EXILE 2007.2.14
12位 90 115 17.9 はなびら back number 2011.4.6
13位 92 - 17.8 最後の雨 中西保志 1992.8.10
14位 97 124 17.5 思い出せなくなるその日まで back number 2011.10.5
15位 98 142 17.5 幸せ back number 2011.4.6
参考 2 3 171.0 花束 back number 2011.6.22
※前月より20ランク以上再浮上した楽曲を対象とした。
 また「花束」は1ランクアップながら、前月より8割も伸びているので参考として掲載した。

 全体での1位は08年の加藤ミリヤのシングル曲。一部では、最新シングル「You…feat.仲宗根泉(HY)」のカップリングに、「SAYONARAベイベー(Nao Tanaka Remix)」が収録されたことが再浮上要因と思われているようだが、実際はTwitterやLINEでこの歌詞(“会いたい““『僕も会いたい』”“ほんとに?嘘じゃない?”“『僕には君しかいない』”など)に沿って、別れを実践したり、またその大半が悪ふざけしたりが大流行したことが要因だろう。確かに、この楽曲の迫り来る感じは、別れの状況をリアルに示しており、あらためて加藤ミリヤの作詞力に唸らされる。
 そして、2位には、8月末にDVD付CDも再発売されテレビ出演も増えた吉田山田、3位には今夏SNSでの注目度はダントツだったドラマ『昼顔』主題歌の一青窈の初出カバー・バージョン、そして5位には当初幼稚園&保育園児で大流行していたが、今では中高生たちがカラオケBOXや文化祭の出し物として流行らせている「ようかい体操第一」が再浮上と、いずれも納得の人気曲ばかりだ。こういう現象を見ていると、CDセールスと歌詞検索のどちらを見れば、ヒット曲が探せるか、一目瞭然ではないだろうか。
  さらに注目すべきは、back numberの11年〜12年の初期楽曲がこぞって再評価を受けているということ。彼らが3月に発表したアルバム『ラブストーリー』は半年経っても毎週数百枚ずつコンスタントに売れており(無論、握手券効果ではない)、その前兆とも言えるヒットが既に無料の歌詞検索では現れているということだろう。RADWIMPS、ONE OK ROCK、SEKAI NO OWARIなどが続々と歌詞検索および動画検索サイトでヒットし、後のダウンロード&パッケージヒットに繋がっていった前例からも、今のうちから彼らをチェックしておくと良いかもしれない。
 その他にも、4位の「小さな恋のうた」、9位の「三日月」、6位と10位の「Best Friend」2曲と、いずれもこの1ヶ月の音楽番組で放送されたものが着実にランクアップ。13位の「最後の雨」はカラオケ番組でカバーされたことも大きい。これらの結果から、歌詞検索ランキングで浮上した旧作は、本当の話題作と見て間違いがないだろう。




SAYONARAベイベー
加藤ミリヤ


日々 / 吉田山田

他人の関係 / 一青窈

 オリジナルは1973年の金井克子のシングル・ヒットで、一青窈は2012年にアルバム『歌窈曲』に収録(本チャートではこのカバーが該当)、そして今年シングル「他人の関係feat.SOIL&“PIMP”SESSIONS」として再びカバーし、ドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』に起用されている。12年の小林武史編曲版はアルバム内に馴染ませるためか、歌謡テイストながら骨太なバンドサウンドに仕上がっているの対し、14年版ではサックスやピアノが炸裂し、また一青の歌唱も遊び心というより浮気心満載で、より妖しく歌いきっている(そういえば、各テレビ番組で、男性出演者のネクタイを引っ張るSM女王的な演出も見事だった)。そんなインパクトの強さも再浮上に繋がったと言えよう。14年版のシングルのカップリングには、高瀬麻里子、渡部沙智子、葛岡みちからなるトランスバランスというコーラス隊が参加した「GOKAI feat.トランスバランス」も収録され、これも男女の駆け引きがテーマのコミカルかつデンジャラスな歌謡曲。一青窈が数年前バッシング報道を受けたことを逆手に取って、今後、この悪女路線をとことん開拓していくことを大いに期待している。


アルバム『歌窈曲』

「他人の関係 feat. SOIL&“PIMP”SESSIONS」

ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。

  今月は、1位〜11位まですべてルーキー経験アーティストのため12位の名古屋市出身のシンガーソングライター藤田麻衣子がルーキーとなった。メジャーデビュー作が14年3月発売(4位のシングル「涙が止まらないのは」)のためルーキー対象となったが、インディーズ・デビューは06年9月(8位の「恋に落ちて」)と、実は既に中堅の域に達している。特に、恋愛アドベンチャー系のアニメ&ゲーム『緋色の欠片』のタイアップ曲はいずれも人気で、この人気曲TOP10でも7曲を占めていて、彼女の繊細で透明感あふれる歌声とアニメの相性の良さを物語っている。
  1位となっているのはメジャーデビューの前年に出た「手紙 〜愛するあなたへ〜」で、こちらは両親への感謝を綴った静かなバラードで、まるで結婚式のために作られたかのように泣けると評判だ。今年発売されたクリス・ハートのアルバム『Heart Songs II』でもカバーされており、本作が今の時代に必要とされていることや、彼のスタッフの慧眼ぶりに感心した。
 そしてメジャー初のアルバム『one way』が10月29日に発売となる。こちらは、この「手紙」のほか2枚のメジャー・シングルを含む全12曲+限定盤にはボーナストラック「あなたは幸せになる」を収録。先行シングル「涙が止まらないのは」は桜の季節に聴きたくなりそうなドラマティックなバラード、「この恋のストーリー」は4つ打ちのダンスビートと、静かに語るように歌うパートのギャップもスリリングで、他にも、キャリアがあるだけに歌詞、メロディーともにバリエーション豊か。インディーズ時代のアニメファン中心から更に広がることを大いに期待したい。

順位 アクセス
比率
タイトル 本人CDでの初収録作品
発売日
1 8.3% 手紙 〜愛するあなたへ〜 インディーズ9thシングル 2013.6.12
2 4.5% それでも私は ※ インディーズアルバム
『LOVE STORY BEST』
2013.2.13
3 3.9% ねぇ ※ インディーズ7thシングル 2012.4.18
4 3.1% 涙が止まらないのは 1stシングル 2014.3.26
5 3.1% 君が手を伸ばす先に ※ インディーズアルバム
『BEST ALBUM』
2009.2.11
6 2.9% この恋のストーリー 2ndシングル 2014.7.23
7 2.4%  ※ インディーズ5thシングル
「瞬間」c/w
2011.5.11
8 2.4% 恋に落ちて ※ インディーズ1stシングル 2006.9.6
9 2.3% 宝物 ※ インディーズアルバム
『LOVE STORY BEST』
2013.2.13
10 2.2% 運命の人 ※ インディーズアルバム
『二人の彼』
2008.10.8
※はアニメ&ゲーム『緋色の欠片』タイアップ曲


つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
 本当のヒット曲を探したいという目的のもと、本文中では「イベント参加券によるパッケージヒット」については敢えて手厳しい意見を出していますが、そのアイドルグループの楽曲自体には、歌い手と分業したプロの職業作家ならではの高品質に舌を巻くものも多くあると実感しています。AKBグループで特に良いな〜と思うのはNMB48。トップにいる山本彩は、毎回ボーカル参加曲が分かるほど本気で歌っているし(柏木由紀が兼任でNMBに入ってから、いっそうライバル心がスパークしたようにも感じます)、秋元康も負けん気根性路線や誘惑路線などNMBにはより人間のドロドロした部分も体現していると思われます。ほかの大ヒット予備軍では、THEポッシボーや、ベイビーレイズ、9nineにも期待。それぞれ楽曲だけでのロングヒットを期待したいところです♪