前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて分析し、キラっと輝くキラーチューン(名付けて"キラ☆歌")を発掘しようというこのコーナー。今月は、歌詞中の二人称が「あなた」として登場する人気曲に着目した。

第17回:「あなた」うたTOP10 (2010年12月:前月データより分析)
テーマ
順位
総合
順位
アクセス
指数
タイトル
アーティスト
発売日
1位
2
100.0
この夜を止めてよ JUJU
2010/11/17
2位
3
89.0
ジャンピン KARA
2010/11/10
3位
4
87.1
ミスター KARA
2010/8/11
4位
11
48.5
ありがとう いきものがかり
2010/5/5
5位
17
36.2
YELL いきものがかり
2009/9/23
6位
19
35.2
もっと強く EXILE
2010/9/15
7位
20
33.7
一番綺麗な私を 中島美嘉
2010/8/25
8位
23
31.4
ブルーバード いきものがかり
2008/7/09
9位
25
30.6
Rain YUI
2010/11/24
10位
26
29.1
Dear Snow
2010/10/6
次点
28
28.4
愛しすぎて Tiara
2010/11/24

 2010年の代表曲に挙げられる坂本冬美の「また君に恋してる」も、西野カナ「会いたくて 会いたくて」「if」も、更には2008年の発売以来、歌ネットではずっと検索上位にあるGReeeeN「キセキ」も、歌詞中の二人称は「君(キミ)」なのだ。90年代以前の二人称は、J-POPの大半が「あなた」、激しいロックや任侠もの演歌、近年でもB-BOY系のヒップホップやレゲエなら「お前」が主流で、「君(キミ)」が出てくるのは、どうも青くさいイメージが先行しすぎたのか、さほど多くなかったように思われる。しかし現代は、男女平等の影響なのか、草食系男子の人気からか、とにかく目立つのが「キミ」うたばかり。そんな中で、かつてメジャーだった「あなた」うたではどんな楽曲が人気なのだろうか。

 ランキング表を見てみると、総合TOP30のうち「あなた」うたは、わずか11曲。やはり主流ではないものの、意外に健闘してるようにも思える。その中で1位はJUJUの「この夜を止めてよ」。同様に、EXILE「もっと強く」、中島美嘉「一番綺麗な私を」など、曲調がメロウな場合は、「キミ」よりも「あなた」の方が心にぐっとくるという効能をあらためて感じさせる。他にも、10位の嵐の「Dear Snow」なども「あなた」が登場することで、ロマンティックな雰囲気が助長されているのが分かる。

 そして、2位、3位には韓国の女性グループKARAの2ndと1stシングルがランクイン。彼女たちは、平均年齢が19.6歳で、少女時代(平均年齢20.4歳)とほぼ同じ若さだが、それ以上に"妹キャラ"が目立つのは、バラエティー番組でもいじられるほど人懐こいトークの人気もあろうが、歌詞中で相手を「あなた」と呼ぶことで、彼氏が年上だという楽曲の世界観も自ずとアピールできていることが意外とポイントなのではないだろうか。
なお、いきものがかりが「ありがとう」や「YELL」など"「あなた」うた"で上位入りしているが、彼らは「じょいふる」や「キミがいる」など"「キミ」うた"の方でも人気なのが興味深い。つまり、より大きなメッセージ性を前面に出したいときは「あなた」うたで、より楽しい世界を演出したいときは「キミ」うたで、と使い分けているように思える。そういった自然な気配りが、彼らの幅広い世代への大ブレイクに一役買っていることは間違いない。

 以上のように、"「あなた」うた"は、意外にも絶滅していない(笑)だけでなく、それぞれの"「あなた」うた"には"「キミ」うた"にない重要な演出効果があることも分かった。以前、TVで80年代のポップスを聞いた若い方が、「"あなた"って重くね??」とコメントしていて、その感想に現代における恋愛のカジュアル感覚や照れを垣間見たような気がしたが、"重い"からこそ"想い"の一途さや普遍性が相手に伝わって、それがメリットになることも大いになるのだなと、今回の結果を見て、実践していただければ幸いである(微笑)。




ジャンピン
KARA

 JUJUの通算15作目となるシングル。菅野美穂の鬼気迫る熱演が光るドラマ『ギルティ 悪魔と契約した女』の主題歌が流れる度に、またTVでJUJUが歌唱する度に、歌詞検索もCDセールスも大きく浮上している。これは、カバーアルバムのヒットによる勢いもあろうが、作詞を手がける松尾潔ならではの危険な恋の匂いと、JUJUの切ない歌唱のコンビが絶妙で、非常にリアルに聞こえるというウタヂカラによるものが大きいだろう。松尾潔は、他にもEXILE「Ti Amo」「ふたつの唇」などこの手の"上品なエロス"系作詞家の第一人者だと確信する。ちなみに、JUJUは、シングルのカップリングに恒例となるカバー曲を収録しており、今回は小田和正の「言葉にできない」に挑戦。これも、彼女が吐息まじりに歌うと、恋愛モードが炸裂していて興味深い。チカラのあるカバーは、楽曲の景色すら変えてしまうことがよく分かるという逸品。


 


ここではデビュー1年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。


 今月は、今年7月にメジャー・デビューした男性シンガーソングライターの高橋優に注目。彼は、1984年秋田県出身で、札幌でのストリート活動後、08年に上京、09年7月発売のインディーズ・ミニアルバム『僕らの平成ロックンロール』を経て、マルチクリエイター・箭内道彦のプロデュースにより今年メジャー・デビューに至った。今回の検索数上昇は、日本テレビのドラマ『Q10(キュート)』主題歌の人気によるもので、本作では恋愛の一途な部分が大きくフィーチャーされているが、是非他の作品も聞いてもらいたい。例えば、1stシングルの「素晴らしき日常」では、世の中の矛盾を指摘しつつもその素晴らしさを語るという常人では表現できないような世界観を見事に体現しているし、そのカップリングの「8月6日」は1年間に起こった様々な出来事を綴ったストーリー仕立てでコブクロの「赤い糸」並みに聞かせるし、その器の大きさに驚くのではないだろうか。ちなみに、関東地方の方なら、東京メトロのCMで彼の「福笑い」という楽曲も聞いていると思うが、この「この世界の共通言語は 英語じゃなくて笑顔だと思う」なんて言葉にもハッとさせられる。サウンド・プロデュースを90年代に「明日の行方」という記憶的ヒットを飛ばしたSMILEの元・ボーカリスト、浅田信一を迎えている影響も大きいだろう。とにかく、"不器用こそカッコいい"と思わせるほど今後の活躍が期待される逸材だ。




高橋優

順位
占有率
楽曲
初収録作品
発売日
1
76.8
ほんとのきもち 2ndシングル
2010.11.10
2
8.7
こどものうた インディーズシングル
2009.5.13
3
7.0
素晴らしき日常 1stシングル
2010.7.21
4
4.6
シーユーアゲイン 2ndシングル c/w
2010.11.10
5
2.9
8月6日 1stシングル c/w
2010.7.21




つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。12月4日発売の日経エンタテインメント!1月号では今年も「年間チャート診断」を4ページにわたって書かせていただきました(これで6年連続9回目の担当)。「今年はヒット曲がなかったよね〜」とお嘆きの方、是非ご一読いただければ、「ああ、それなりに面白い1年だったな〜」と分かりますし、業界人の方は「でも、課題もあれこれ多いな」と刺激になるかなと思います。どうぞお試しください♪