恋にも人にも「絶対」はないからこそ“今”を…。

 2019年7月でデビュー15周年イヤーに突入する“奥華子”が、ニューアルバム『KASUMISOU』をリリース。今作は、これぞ【失恋の女王】と言える、切なすぎる新曲「鞄の中のやきもち」から幕を開けます。ただ実は、歌の主人公の性格は、自分と違うことが多いんだそう。恋愛において“しがみつく”ということはなく、何事にも「絶対なんてない」と語るサバサバな彼女。でも、いずれ変わりゆくことを知っているからこそ、歌にたしかな“今”が描かれるのです。また、活動を振り返っての様々な想いも吐露してくださいました。是非、奥華子の本音を熟読した上で、歌詞をじっくりご堪能ください…!

(取材・文 / 井出美緒)
鞄の中のやきもち 作詞・作曲:奥華子 あなたの部屋に置いた 寂しさも あなたの鞄に入れた やきもちも
全て無くして 忘れてしまえるのなら
もう一度だけ 私を好きな あなたに会いたい
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私の音楽って、もっと世の中のひとに求められるものだと思っていた。

―― 今年7月でデビュー15周目に突入する奥華子さんですが、音楽の魅力に気づいた一番最初のきっかけとは何だったのでしょうか。

最初の最初までさかのぼると、まだ幼稚園に行く前くらいの話になってしまうんですけど、父親が童謡大好きでいつも歌っていたことですかね。私はピアノで適当に伴奏をつけたり、一緒に歌ったりしていたんですよ。だから実は自分のルーツも童謡で。短い言葉で深い意味を伝える。そして、聴いたらすぐに歌える。覚えやすい。そういうところは、歌詞を書く面でも大切にしてきたところだと思います。

―― 高校から曲作りを始めて、大学でも音楽活動をされて、もう初っ端からずっと「自分は歌でやっていこう」という気持ちだったのですか?

いや、初めはそこまでじゃなかったんです。大学がトランペット科だったので、トランペットで生きていくんだと思っていました。でも、20歳のときにライブハウスで歌い始めて、周りのひとに「いいね!」って言ってもらえることがものすごく嬉しくて。めちゃくちゃ調子に乗ったんですね(笑)。それで「私はシンガーソングライターとして売れるんだ!」という意識を持ったかな。だんだんその道しか見えなくなり、絶対にシンガーソングライターでやっていけると思っていました。

photo_01です。

―― では、これまでの活動の波をグラフで表すとしたら、どんな形になると思いますか?

えー、気持ち的な面をお話しすると、まずその20歳のときは絶好調の右肩上がりでしたね。誰が何と言おうと揺るがないような、根拠のない自信がありましたので。その第1次ピークは3年くらい続きまして。それから23~24歳のときに今の事務所の社長に出会って、まぁ…自信はボロボロにされました(笑)。

―― ボロボロ…。

「そんなに自分がすごいなら、とっくに売れてんじゃねーの?」って。私が良いと思っていたことをすべてダメ出しされ。でも、よく考えると、たしかにそうだな…と。自分のダメさを認めた時期だったんですよね。だからそこで一旦、グラフはドン底まで下がり。2年間くらいは、新しい私で曲を作ろうという期間に入りました。そして、2004年に路上ライブを始めたんですけど、そこで気持ちはまたグイーッと上昇しました。「私の居場所はここだった!路上で一生やっていく!」って。

―― かつては、路上ライブを中心に活動していくアーティストになろうと思っていたんですね。

そうなんですよ。それまではメジャーデビューが目標だったんですけど、有名になることなんて全くどうでもよくなりまして。それぐらい自分を認めてもらえたことが嬉しかった。とにかく今、目の前の人が足を止めて、歌を聴いてくれていることの喜びが何よりも大きかったんですよね。だからそこは正直、グラフのピークかもしれません。メジャーデビューしてからは、やらなくちゃいけないことに追われて、かなり下がったり上がったりを繰り返してる感じでしたね。

―― でも、すごく歌詞人気の強い楽曲たくさんありますし、リリースも常になさっていますし、デビュー後の活動は右肩上がりな印象があるのですが…。

いやいやいや!でも…うーん、難しいですね。たしかに多くの方に好きだと言っていだたけている歌もあるし、活動自体は日々忙しかったんですけど…。とくに2005年にデビューしてから、2010年くらいまではテンション的にはかなり下がっていたんですよ。逆に常にリリースがあったからこそ、そのペースについていけなくてツラかったのかもしれません。

―― 気持ちが下がっていた原因は何なのでしょうか。

基本的に、歌を歌うことが好きで、音楽が大好きだからやっているというよりも、自分の歌を誰かに必要とされたい、認められたい欲が強かったんですよね。それが私が音楽を作り続けている理由だと思っていて。でもシングルをリリースしてもしても、そんなに世の中には響かないんだということを実感していくわけです。私の音楽って、もっと世の中のひとに求められるものだと思っていた。そこのギャップがツラかったのかなぁ。

―― なるほど。ご自身で想定していたハードルには届いていなかったということですね。

はい。さらに2011年の震災のとき、なんか歌とか歌詞とかそういうことじゃなくて、やっぱりもっと“人として”みたいなことを考えさせられましたよね。当時、自分の年齢的にも「本当にこれでいいのかな?」って思うこともたくさんあって。また気持ちが相当落ちまして。それでもう一旦、休んでみたんです。リリースとかも何もしない。そうやって一度、気持ちを通常モードまで戻して、今に至ります。やっぱりファンの方がいてくれたことが自分の支えになったし、もっと自分を認めてあげようと思うようになってからは、わりと開き直って、持ち直してきている感じですかね。

―― 華子さんは“失恋ソングの女王”と称されている一方で、明るく可愛らしいCMソングの歌声でも有名です。真逆の世界観を表現できる歌声は強い武器だなぁと感じるのですが、ご自身の声にはどんな性質があると思いますか?

もともとは歌い方も声も違っていたんですよ。先ほどお話したデビュー前のドン底期「これじゃダメだ!」って思ったときに変えたんですよね。そもそも私は声がそんなに強いわけじゃないし、ビブラートをつけられるわけでもない。それなら、とにかくストレートに、しゃくらずに、言葉を伝えるように歌おうって。やっぱり“歌詞”を伝えるには、そのほうが良いだろうと。そこを変えていったことで、奥華子らしい歌声というのが出来上がった気がします。より言葉を伝えるための声というか。とくにCMソングの場合は、瞬発的に目立つような声を意識して歌いますね。

―― 歌詞面や、描きたい恋愛観なども変化してきましたか?

どうかなぁ…。いや、そこはあんまり変わってないかもしれないです。結局、恋愛って変わらないんですよね、ずっと。本当に成長してないなぁと思う。好きになったら、高校生のときの「好き!」って気持ちと、今の年齢での気持ちと、まったく変わらない気がします。だから、学ばないし、繰り返すんだなって…(笑)。

―― ちなみに極端な話ですが、一人のひとに恋をしたら、何曲くらい生み出せるものなのでしょうか。

わりと軽い、忘れてしまう感じの恋と、いつまでも忘れない特別な恋ってあると思うんですが、特別な恋愛の場合、曲はいくらでも作れますね。しかも幸せなときってなかなか作れなくて、失ったときにこそ生まれる。だから私には、すごくたくさん失恋ソングがあるんです(笑)。でもそれは、いろんなひととの失恋を歌っているわけじゃなくて。すごく好きだったひととの大きな失恋を、ずーっと歌い続けている気がするんです。どんなにシチュエーションが違っても、想いの芯はいつも同じというか。そういう、心から好きになっての失恋ってそんなにないから、すごく…ありがたいです(笑)。まぁ今だからこそ、そう言えるんですけどね。

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