どの歌詞もきっかけは自分の実体験です。

―― 「彼氏はいません今夜だけ」は、アルバムの入口となる楽曲でもありますが、1曲目から強烈なラブソングを入れましたね!

ですね(笑)。でも、こんなにみんなから「よくこれ歌うね」とか「パンチが効いているね」って言われると思っていなかったんですよ!ビックリしました。私としては、この「彼氏はいません今夜だけ」って言葉は、大人の女性がよくジョークで言っているようなイメージがあったし、みんな合コンとかで当たり前にふざけて言っているんでしょ!くらいの気持ちだったから。それが世間に出してみたら、いろんな賛否両論があって、面白かったですね。

―― MVのコメントなどを読むと、同じ女性でも「すごく共感する」という声と「わかるけど…ダメでしょ」という声、まさに賛否両論ですね。

現実の友達でも「浮気は何がなんでもダメ」っていう子と「しょうがないよ」って言う子がいますからね。私はこの曲を発表する前に、まず自分の友達に聴いてもらったんですけど、みんな共感してくれたんですよ。だから私と、私の友達の感覚が世間とズレていたのかな?とも思いました(笑)。でもね、なかなか「この曲に共感できる!」って表立って言うのも勇気がいるだろうから、実はこっそりと共感しながら聴いてくれている子がいるといいなぁ。

―― あと、これがもし『彼女はいません今夜だけ』だったらもっと炎上するだろう、という意見もありました。

私も、男が言ったら最低だと思います(笑)。自分のなかで、男の浮気と女の浮気はまったく別物やと思っているから。だって男はねぇ…もう遺伝子に“子孫を残したい”って本能とかが組み込まれているじゃないですか。でも女の子は多分そうじゃなくて、浮気をしてしまう気持ちの裏側に「本当はちゃんと彼氏に掴んでいてほしい」って本音があると思うんですよね。

photo_01です。

―― 歌詞には<お NEW のブラジャー 身につけてもさ 暗闇ですぐ脱がされちゃって台無し>というフレーズもありますが、これはきっと一例で、この子は他にもいろんな場面で彼氏に構ってもらえなくて、その積み重ねで<乙女心>がカラカラになってしまったんでしょうねぇ…。

そうそう!ブラジャーの件は一例に過ぎないんです!だから「これくらいで浮気する?」とか思われたら腑に落ちない。こういう些細なことが積み重なって乾いていくんだよ!って思います。やっぱり彼氏が自分にもう興味を持ってくれないのかなって思うと、揺れちゃうんじゃないかなぁ。なかなか言葉にしてくれない男性が多いですし。だからこそちゃんと「好きだよ」とか言われたいし、長く付き合ってもずっと可愛がってほしいんですよね。

―― お話を聴いていると、この歌は新しく目の前に現れた<あなた>じゃなくて、全て彼氏に聴いてほしいメッセージであるように思えてきます。

も~その通りなんですよ!本当は気づいてほしいんです!彼氏に!そういう<あたし>の切ない部分を聴いてほしいですねぇ。でも、この子が最終的に<間違え>たのかどうかは、聴いてくれた人の今までの経験によって解釈が違ってくると思うので、そこはみなさんの想像に任せたいと思います。

―― 「彼氏はいません今夜だけ」もそうですが、コレサワさんは数々の強烈なラブソングの主人公や物語をどのように生み出しているのですか?

だいぶクセが強いですよね(笑)。でも、どの歌詞もきっかけは自分の実体験です。こういうことがしたいとか、これを言いたいけど言えないとか、かなり多くて。だから必ずフレーズのどこかには実体験が入っていて、そこから膨らましていく感じです。あと、私は女の子の裏側も歌えるアーティストになりたいんです。悪い女の子の曲ってあまりないじゃないですか。でも現実にはそういう女の子も蔓延しているから…(笑)。その子の裏側の気持ちにスポットライトを当てて、可愛く曲にするということは意識していますね。

―― アルバムの3曲目「泣く門には福きたる」は、歌詞のテイストがガラッと変わりまして。これは Huluドラマ『うつヌケ』の主題歌に書き下ろした曲ですね。

原作と脚本と映像から感じたことをそのまま書きました。このドラマはうつに悩む人たちの話なんですけど、私はうつ病のことを知ったつもりでいて、全然わかっていなかったんだと気づかされました。こんなに身近で起こりうる病気で、私もちょっと考え方が違ったら、うつになっていたかもしれないと思うエピソードもたくさんありましたし。この作品を知るまでは、うつは弱い人がなる病気だなんて思っていたんです。でもそれは絶対に違って。頑張りすぎてしまったり、自分のやることを貫こうとしすぎてしまったりして“強い”からこそ壊れてしまうんですよね。そうやって泣いている人にこそ、いつか幸せはちゃんとやってくるよってことを伝えたくて、この歌を作りました。

―― 私も「笑う門には福きたる」よりも、「泣く門には福きたる」の方がずっと希望的だと感じました。苦しいときに笑わなきゃって思うのは、逆にしんどいですし。

私も「笑え!」って言われて、上手く笑うことができないから“れ子”ちゃんの被り物をしているので、すごくわかります。でも泣いていると「あ~、笑ってないから幸せが来ないんだなぁ」ってどんどん落ち込んでしまうじゃないですか。だからこそ「泣く門には福きたる」って言ってもらえたら、泣いてもいいんだな、いっぱい泣いてからいつか笑おう、ってそう思えるんじゃないかな。ちょっとでもこう…荷物がフッと軽くなったらいいなって思います。

―― 「うつ」という言葉だけ聞くと、歌詞を書くのもかなり気負ってしまいそうですが…。

本当に最初はそうでした。だから、ドラマの方に「うつを抜けた気持ちを明るく歌ってほしい」ってオーダーいただいたとき「あ、明るく歌っていいんだ!」って思ったんですよね。それなら、励ます歌というよりも、仕方ないからうつさえも愛しちゃおう!という勢いで歌おうって。あと、うつの中にいると景色が淀んだりとか、色がくすんで見えるということを知って、自分が今、綺麗なものを綺麗と思えるのは当たり前じゃないんだな、とも感じたんです。だから歌詞の<美しいものを美しいと気づけますように>というフレーズに、今の自分の生活への感謝と、今は泣いている人もいつかまた美しい景色が見える日がきますように、という気持ちを込めました。

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