INTERVIEW
メトロックで新曲を初披露したときもめちゃくちゃ怖かった…

新曲「いいひとどまり」には、そんな人間の美しさが好きな柴田さんの気持ちがギュッと詰まっていますが、この歌詞はどのようなきっかけからうまれたのですか?

柴田:なんかねぇ…すごく落ち込んでいたんですよ(笑)。3ヵ月前くらいかな。すべての出来事が暗く見えて、俺はみんなからナメられている、軽んじられている、どうせ価値なんかない…みたいな時期があって。でもそのときにずっとミスチルとエレカシを聴いていたら、すごく救われたんですよね。機材車のなかで「あぁ桜井さんはどうしてこんなに俺の暗い気持ちをわかってくれるんだろう」とか思って。そういうときに効く歌詞じゃないですか。

そうですねぇ、ドン底な心にこそ沁みると思います。

柴田:ね。だから俺もそんな歌詞を書きたいと思ったんだよな。落ち込んでいる人に「わかるよ」って。なんつうのかな…上からじゃなくて、寄り添うというか。「立ち上がれ!」みたいなことを言いたいんじゃなくて、頑張ったんだけどうまくいかなくてふさぎこんでいる、っていうその気持ちを正確に表現したいと思ったのかな。とくに1番のAメロはそういう気持ちで書き始めました。

冒頭の<何度つまずいてもずっと立ち上がってきたら 心がもう無理と悲鳴を上げて壊れた>ってフレーズ、本当にこういうどうにもならないときってありますよね。

柴田:まさに「こういうときってあるよね」って思ってほしかったんです。今までの曲はそういう書き方をしていなくて、「しんどいんで呑みました!」みたいな歌詞でした(笑)。それはそれで感情の瞬発力があって良かったと思うんだけど、今回は“しんどい”の解像度をもっと高く表現したくて。だけど、聴いた人に「この歌詞わけわかんない」って言われたら、新しいトライは完全に失敗したってことじゃないですか。だから怖さもあるんですよね。まぁ怖いってことは、それだけ挑戦できたってことなのかもしれないけど。

その怖さの分だけ、出来上がったときに大きな手ごたえもあったのではないですか?

photo_01です。

柴田:あったあった。すごくあった。スタッフに聴いてもらったときも、良い反応を俺は感じたから、これはイケると思ったんすよ。でも自信があるからこそ、それが裏切られたときの絶望ってハンパないじゃないですか!だからメトロックで初めて新曲を披露したときもめちゃくちゃ怖かったっすもん。お客さんの上に乗ってビールを呑むパフォーマンスをしながら「このあと新曲やるの怖えー!」って思っていました(笑)。でも、そこで得た“大丈夫”って安心感もあるし、今はリリースする楽しみの方がちょっとだけ大きくなっていますね。

「いいひとどまり」というタイトルからは、この歌の<僕>の優しさとか不器用さとか誠実さとか、いろんなものが伝わってきますね。

柴田:タイトルもねぇ、ちょっと迷ったんですよ。歌詞の内容と直接的には関係ないワードだし。でも、その「いいひとどまり」って言葉のイメージを背負った奴が、必死にこういうことを歌っているというところから人間像が浮かび上がってくるんじゃないかなぁって思ったんですよね。逆に、こんなに一生懸命に歌っていても、一言で表すと結局は「いいひとどまり」なんだって切なさもなんか素敵だなぁって。それは俺が伝えたい人間の美しさでもありますね。

そんな“いいひとどまり”な主人公が、曲の前半では<僕はなんにも持ってないから>と言っていたのに、後半では<なんにもないとか言わないでよ>と真逆の力強いメッセージを伝えているところ、美しいです。

柴田:そこ俺、超好きなんすよ(笑)。自分には何にもないと思っている奴が、頑張って無理して、落ち込んでいる人に<なんにもないとか言わないでよ>って…めちゃくちゃエモいじゃないですか!なんか、この歌詞では、主人公の覚悟が少しずつ決まっていく様子を表現したかったんですよね。だからサビも、1番では<そんな歌をうたいたいけど まだまだ僕は弱いよな>って前向きなことを言い切れなかった“僕”が、ラストでは勇気を出して想いを伝え切っているんです。

なるほど…!この歌詞のメッセージを受けたファンの方からはすでに『救われました』や『ありがとう』といった感想がたくさん届いていますよね。「いいひとどまり」は今までで一番そういった声の多さを感じる楽曲になったのではないでしょうか。

柴田:そうですねぇ。忘れらんねえよを好いてくれている方がどんな人たちなのか、今はクリアに見えている気がします。多分、言葉にすごく期待してくれていると思うんですよ。それはどうしてかっていうと、やっぱり頑張っているのにうまくいってない人とか、何らかのツラさとか悲しみとか怒りを抱えている人たちだからなんじゃないかな。だから「いいひとどまり」は、そういう人たちに贈るプレゼントみたいな歌でもありますね。逆に「スマートなんかなりたくない」の方は他者に捧げる歌ってイメージじゃないんですよ。

「スマートなんかなりたくない」の歌詞にはこれまでの“忘れらんねえよ”楽曲に通ずる、柴田節が炸裂していますよね。

柴田:そうそう。俺の怒りの発露というか、ギャー!俺を見ろー!ダサくたってイイだろー!みたいな(笑)。でも転換期だなとも思っていて。順番的にも、落ち込む前の元気だった頃に「スマートなんかなりたくない」を書いて、その後に“どうせ俺なんて…”の時期が来て「いいひとどまり」を書いたんですよ。そうやって「いいひとどまり」を書き終えたとき、なんか新しいところにいけたような、次の展望が開けたような感じがありました。俺まだやりたいことあるぞ!これからはこういう曲を歌いたい!って。だから一つのシングルの中に、前の自分と今の自分が入っているんですよね。



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