第171回 コブクロ
 僕には勝手な基準がひとつある。「いい曲だ」と思える作品を10曲以上世に送り出しているソングライターは、無条件に尊敬する、というものだ。

実は、それほど多くはいない。でもその数少ない一人が、今回取り上げるコブクロの小渕健太郎だ。彼はまさにポップス職人で、名曲請負人なのである。

これまでに発表されてきた作品を聴けばわかるが、その作風は幅広い。でも今回は、彼ならではの「ポジティブな表現」に注目してみた。では、おなじみのこの作品から。

ジャケット画像1 2004年10月14日発売
まさにこれぞ、ポップ・ソングの最適解
 まず「Million Films」である。日常の何気ない一瞬をドラマに変えていくのがポップスの使命だとしたら、この曲はその最適解と言える。

主人公は、愛する「君」といつもの道を歩いて帰る。そこでまず目に入るのが、[茜に染まる] [レンガ道]だ。もともとそこにあるレンガの色に、夕陽が重なり色彩に深みを与える。ごくありふれた景色が、鮮やかな一場面となる。

さらに興味深いのが、途中、主人公が[黙りこくってた]理由なのだ。べつに、不機嫌だったわけではない。[電線]を[五線譜]に見立て、君へのメロディを考えていたのだ。この歌の主人公は、もう呆れるくらい、歌を作ることが天職なのである。

ところが二番では、相手の過去の恋人との写真を見つけ、お互いの心に小さな亀裂が入る。そして、ここからが小渕健太郎の本領発揮だ。今回のテーマである彼ならではの「ポジティブな表現」が炸裂する。

[破れたりほつれたり]することは、[新しい結び目を作るため]だと言うのである。さらにそこに涙がしみ込めば、[二度とほどける事はない]と結論づける。

傷ついたことそのものを、むしろ両者が関係を強くするための好材料と受け止める。

なお、この歌詞だが、糸や紐は水分を含むと横に膨張し、それに伴って縦にも伸びる。結び目がより強固になるというのは、科学的にも理にかなった表現なのだ。

決定打が[100万枚撮りのフィルム]という思い切った誇張表現だ。二人の思い出をいくら写真に収めても、決して撮り切ることはできない。100万枚という、個人がシャッターを押すには不可能な数字を持ち出すことで、主人公の幸福感が一気に立体化し、聴き手に届いていく。

ジャケット画像1 2004年9月4日発売
普遍的テーマをどう磨き込むのか
 次はここ最近の作品から「RAISE THE ANCHOR」を取り上げたい。困難や迷いを乗り越え、新たな未来へ踏み出していく決意を歌った曲だ。「碇を上げる」という意味のタイトルでも分かるが、立ち止まっていた場所を離れ、新しい場所へ向かう意思を表現している。[先を案ずるな] [今を生き切れ]という言葉も効いている。特に後者。「生き切る」という言葉には、一切のブレがない。

ただ、こうしたテーマ自体は、昔から歌われてきたポップスの定番と言えなくもない。でも、だからこそ小渕健太郎ならではのものを探したくもなる。あった。すぐに見つかった。

彼特有のポジティブさ。それは、[嵐に折られたマストを集め]、[束ねて作ったこのオール]の部分である。

嵐に折られたマストは、普通なら失敗や喪失の象徴だろう。ところが小渕は、それを海に捨てずに拾い集め、束ね、なんとオールにしてしまうのだった。前へ進むための道具を、嵐によって壊された、いわば廃材からこしらえたのである。

“破れ”や“ほつれ”が新たな“結び目”へとなっていく「Million Films」同様、ここに彼の哲学がある。失ったもの、マイナスになったものをいったんゼロに戻して何かを始めるというよりも、マイナスそのもののなかに未来への推進力を見出す。彼の歌から伝わるのは、もはやいったん徳俵まで追い込まれているのに、そこからエイヤッと切り返してみせる人間力なのだ。

ちなみにこの「RAISE THE ANCHOR」は、テンポ感のあるライブ向きの作品でありつつも、メロディの豊かさを置き忘れていない。その意味では、かつての「君という名の翼」的と言えなくもない。

ジャケット画像1 2007年3月21日発売
ほかにも彼のポジティブさを探してみよう
 今回は小渕健太郎らしいポジティブさに着目して書いてみたが、たとえばあの「蕾」にしても、[ビルの谷間]に埋もれてしまった夢さえ[いつか芽吹いて]花を咲かすという、この部分なども実に彼らしいと思う。

植物の生育には土が必要だが、ビルの谷間はコンクリートにふさがれている。そこに「芽吹く」という言葉を置くこと自体、とことんポジティブなのだ。



ジャケット画像1 2012年9月5日発売
そして、僕が好きなこの歌を最後に。「焚き火の様な歌」である。歌詞のなかに[涙の中で][煌めく星になる]という表現がある。僕はこの場合の涙は、涙ぐんだ目、なのではと解釈している。そこは煌めく星を映し込むことが出来る。なんともロマンチックである。

さて今回、小渕小渕小渕小渕と、コブクロなのに黒田俊介が登場しない原稿を書いてしまった。もちろん機会があれば黒田作品についても書きたい。また、コブクロの重要な場面で、共作曲が生まれ続けていることもファンの方々はご存じだろう。というわけで、これからも小渕健太郎には、必殺、いや、必聴・名曲請負人でいてほしい。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
近況報告 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

先日、桑田さんのライブを観に初めてお台場のトヨタ・アリーナへ行ってきた。実はこの会場、かつてライブハウスの「Zepp Tokyo」や観覧車があったすぐ横に位置する。「Zepp Tokyo」には数え切れないくらい通った。今は跡形もないけど、在りし日のミュージシャン達の演奏が、土の中から蘇ってくるかのよう な気がした。