第169回 M!LK
 今月は、これまでのボーカル・グループとは一線を画す世界観と、圧倒的な親しみやすさを併せ持つ、人気爆発中のM!LKを取り上げたい。

実は僕が彼らを知ったのは「コーヒーが飲めません」だったのだが(発売されて少し経ってからだが……)、そうなのか、僕も飲めないんだよなぁ、と親近感を抱いたのを覚えている。ただ、聴く前に想像していた内容(オフィスなどを訪ねると、とりあえず儀礼的にコーヒーがふるまわれることへ疑問を呈する歌だと思っていた)とは違っていた。コーヒーの苦み=大人への階段、みたいな内容だったのだ。

でも、そうこうするうち(←ここで、とても便利な言葉とともに時間を省略)、彼らは押しも押されもせぬ存在へとなった。どの曲を取り上げようかと考えたが、やはり代表曲に。まずはこちらから。

ジャケット画像1 2025年10月27日配信
80年代歌謡ポップス的な“太文字”の表現が活きている
 「好きすぎて滅!」については、“滅”というネット・スラングの説明を必要とする世代と無用な世代がいるだろう。この一文字は、好きすぎて尊すぎてもはや耐えられず、もう自分が破“滅”してしまうんじゃないかという状態を指している。

ラブ・ソングというものには、誇張した表現がつきものだ。それにより、どんだけ好きかを伝える。この作品ではまず、タイトルにその流儀をぶちこんだ形である。でも、それはタイトルだけではない。中身も負けていない。キャッチィなフレーズの宝庫なのである。

まっさきに取り上げたいのは[君がノンフィクションだなんて]である。バーチャルな恋愛が普通になった世の中へのアンチテーゼともいえるし、これほどまで理想的な相手が現実に存在することへの素直な驚きとも受け取れる。

さらに、僕は長年J-POPを聴いてきたが、ここまでのスケール感はこれまでなかったんじゃないかと思うのが、[宇宙の果ての果て]で出会った的なフレーズの横に、[海馬をジャックする]という脳科学関連の表現が同居する点なのである。もう、マクロからミクロへと縦横無尽に駆け巡るのだ。

そんな個人的なこだわりはさておき、全体としては実に親しみやすい作風である。コトバのリズムもとても考えられている。なかでもお見事なのが、[一切合切][実際問題][一体全体][現在 未来]という、こうした言葉の羅列である。日本語らしい情緒がありつつラップっぽくもある。ポイントなのは、四つめの[現在 未来]だ。ここで韻の呪縛からは解放されている。でも、そのほどき方が絶妙なのである。ぶっちゃけ、かつて庶民の味方だった歌謡ポップス的な寛ぎもある。

でも、歌謡ポップス的というのは、まさにそうなのだと思うのだ。近年のJ-POPには、繊細なニュアンスや余白を重視する作品も少なくないし、そういうのも素晴らしいけれど、この歌の表現は、決して細字ではなく太字だ。いや、極太マーカー・クラスなのだ。

最近は動画サイトやSNSを通じて、80年代のアイドル歌謡に触れる若い世代も増えている。あの時代のヒット曲には、一度聴けば忘れられない言葉の強さがあった。タイトルもサビもキャラクターも、とにかく輪郭がはっきりしていた。“なんてったって”“ギンギラギン”だったのだ。この歌はあの頃の文化にも負けていない。“ぎゅんぎゅんぎゅん”で対抗している。

ジャケット画像2 2025年3月5日発売
イイネの数より「イイじゃん」こそが有効打
 もう一曲、近年のM!LKを語るうえで欠かせないのが「イイじゃん」である。この曲は一途なラブ・ソングという意味では「好きすぎて滅!」と同じ系譜にある。しかし、描いている世界は対照的だ。前者が“好き”という感情を宇宙規模にまで増幅する歌なら、こちらは、その感情を身近な日常へと引き寄せる。そして、この歌に溢れているのは、とことん相手を肯定するという姿勢である。

ところで「イイじゃん」という言葉から、多くの人はSNSの「いいね」を連想するだろう。だが、この二つは似ているようで、実はまったく違う。「いいね」は数で競われ、評価されるものだ。しかしこの歌のなかの「イイじゃん」は、数値とは無関係に、「それでいいよ」「そのままでいいよ」と相手の存在そのものを受け入れる言葉なのである。

この曲のキラーフレーズとして僕が挙げたいのは、[褒め合っていたい]だ。認められたい、勝ちたい、上へ行きたい――そういう競争ではない。互いの良さを見つけ合い、喜び合う関係。この一言だけで、この歌が目指している人間関係が見えてくる。

さらに印象的なのが、[くしゃり笑う]という描写だ。一般には、整った笑顔のほうが美しいものとして扱われる。しかし、この歌は笑顔が崩れる瞬間さえも、その人だけの魅力として受け止める。完璧さではなく、その人の“らしさ”を愛おしむ視線というか、それがこの一節には宿っている。

「好きすぎて滅!」が極太マーカーで感情を描く歌だとすれば、「イイじゃん」は、感情をそっと受け止め、分かち合う歌だ。方向性は対照的かもしれないが、根底に流れているものは同じだろう。説教臭さがまったくないのも共通する。真面目な顔をして人生論を語るのではない。ノリノリで聴いているうちに、気がつけばこれらのメッセージが自然と心に染み込んでいる。

エンターテインメントでありながら、聴き終えたあとには、ほんの少しだけ人に優しくなれる。それが、彼らの音楽の最大の魅力なのかもしれない。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
近況報告 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

マイケルの映画が大ヒットしているからか、僕もふくめ4人の筆者が担当した『ミュージック・マガジン』誌「クロス・レヴュー」の『スリラー』評が脚光を浴びているという。1983年に書いた短い文章だし、まったく忘れていたので読み返してみた。で、なかなか微妙なけなし方をしてた。でも、そもそもなぜあのレヴューが蒸し返されているのかというと、4人全員があのモンスター・アルバムを酷評しているかららしい。当時を振り返り、いま言えるのは、あの頃のあの雑誌におけるアフリカ系アメリカ人音楽評価のパラダイムは、つまりあんな感じだったということだ。いま現在はおそらく違うんだろう。ちなみに『スリラー』でいうと、僕は「ヒューマン・ネイチャー」って曲が大好きだ。