第137回 キャンディーズ
 キャンディーズの三人が実際に活動したのは1973年から78年までの5年間だが、自分達の意志による突然の解散宣言などもあり、当時を知る人々には大きなインパクトを残したグループだ。

でも、何より語り継ぐべきは、もちろんその作品性なのである。名曲が多数ある。今回は、そのなかから選んだ代表曲3つを紹介したい。

photo_01です。 1976年11月21日発売
まずは秋にリリースされたこの名曲から

 当時、三人は『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』という人気番組に出演していたのだが、それにあやかり、今の季節に“聴きごろ”な作品から行ってみよう!

なかにし礼作詞、三木たかし作曲という、日本の「歌謡曲」を支えた名作詞家と名作曲家の手による「哀愁のシンフォニー」である。彼女たちの作品のなかでも、とびきりアダルティな作風で知られる。

この歌のなかで描写される登場人物たちのアクションは、極めて少ない。[あなたの目]が私を見ている。基本、ただそれだけ。ツー・コーラス目でも、さほど進展はない。今度はその目が、[ぬれてる]。もう、ホントにただそれだけ…。

もちろん、目は心の中を映すのである。主人公は、相手から投げかけられた言葉以上の感情を、読み取ろうとするし、実際、心象風景の巧みな描写もある。

基本的には“ザ・両想い”の歌だろう。でも、好き好き好きぃ~、みたいにあっけらかんとしたものじゃなく、様々な含みがある。さすが秋の歌。秋はモノ想う季節。モノ想うと、余計なことまで考えたりもする。

想像として、相手は自分より年上の、恋愛ビギナーというより恋愛マイスターという設定のようだ。いっぽう主人公は、ビギナーなんだと思う。そもそも[遊びと恋の区別]がつかない。

まぁ、当事のキャンディーズはカテゴリーとしては「アイドル」だったわけで、そういう人達が恋愛のマイスターであったらちとマズいのだが。

結果、この歌で一番印象的なサビの最後のフレーズへと行き着くのである。

[なんとなく恐い]。

これは非常に巧みな表現だ。さすが、なかにし礼。恐い、であるなら、拒絶が先に立ってしまい、物語が広がらない。でも[なんとなく恐い]は、受け入れ態勢も3~4割なら備わった状態だろう。

おそらく相手を受け入れてしまうのではないか…、などと、想像を逞しくすることが出来る。この先は、実際にこの楽曲を味わいつつ、各自で判断していきだきたい。

photo_01です。 1976年3月1日発売
毎年、“春”になると必ず耳にする名作

 彼女たちの作品で、いま現在、もっとも有名なのは「春一番」だろう。Xmasが近づくと山下達郎を耳にするように、春が近づくとこの曲を耳にする。作詞・作曲・編曲、すべて穂口雄右の手による楽曲だ。

山の雪解けから始まっていく歌詞は、暦にあてはめたら立春から春分のあたり。もちろん春一番とは、次の季節の到来を告げる、強い南風のこと。

彼女たちは巧みなテクニックを持つコーラス・グループだったが、この作品は、ユニゾンで歌うところが多い。それゆえ歌詞の芯の部分が届く。でも、♪もうすぐ はぁ~るですねぇ~♪の“はぁ~るですねぇ~”は、見事なハモリを聞かせてくれる。

ここはとても重要。なぜならモノクロの季節である冬から、色鮮やかな季節である春がやってくることを、音楽的な意味でも、見事に表現しているからだ。

でも、いま改めて聴くと、演奏は力強く、リズムの歯切れもいいけど、歌全体の印象は大らか。それはつまり、70年代のフォーク・ソングの流れをくむ、“です・ます調”の歌詞だからだ。

ゆえにこの歌のメッセージは、押しつけがましくなく、やんわり届く。その具体的な内容、この歌が提案している、春にやるべき三つのことを書き記す。

気取る、誘う、恋をする、である。

[気取ってみませんか]に関しては、せっかく春なんだからオシャレしましょうということ。[彼を誘ってみませんか]は、陽気もよくなってきたことだし、外にデートに出掛けよう、という提案。

三番目の[恋をしてみませんか]は、文字通りの意味。ただ、この歌は不特定多数へのメッセージのようで、実は特定の相手に向けたものでもあるのだ。そう呼びかけている相手は、去年、失恋を経験した。その彼女(彼)を励まそうとする。

一カ所だけ、いまの時代にそぐわない部分も出てきてしまっている。[重いコート脱いで]のところだ。当事のコートといえば、主にウール素材(または別素材との混紡)であり、着ればそれなりに、ずっしりであった。ダウン・ジャケットも有るには有ったが、アウトドア専用の防寒具。タウンユースではなかったわけだ。

photo_03です。 1977年6月21日発売
最後にコーラスが巧みなこの曲を

 さて行数も残り少ないが、3曲目は彼女たちの夏の定番曲「暑中お見舞い申し上げます」を取り上げたい。作詞は「神田川」ほかで知られる喜多條忠、作曲は佐瀬寿一である。

この作品の歌詞で素晴らしいのは、[夏の日の太陽]について、[まぶたに口づけ]を受けているみたいだと表現している冒頭部分だ。

眩しくて目をつむった際、まぶたに感じる光線の鈍い感触のことを言っているのだろうが、それを[口づけ]になぞらえているのがとても新鮮なのだ。

でも、そうしたディテイルはどうでもいいくらい、勢いマシマシな作品なのである。歌詞の上には表記されていないが、“アハハン”とか“ウウッウゥ”という、ノリノリの合いの手(オブリガード)は天才的とすら言える。

せっかくの夏なのに、じっとしているなんて勿体ない。そんな気分にさせる、いや、そんな気分に駆り立てる歌である。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
近況報告 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

今回取り上げたキャンディーズ。実はファンだった。僕の推しは、だんぜんスーちゃん。残念ながら、彼女は天国へ召されたが、一度だけ、ソロでアルバムを出した時、インタビューすることが叶った。確か六本木の、当時流行のスポーツ・カフェのような場所。ど緊張したのだけ覚えている。どういうこと話したかは覚えてない。まあ基本、新作アルバムの話だったのだが…。「いろんなアーティストに逢えてイイねぇ~」なんて友人から言われる職業だけど、この時だけは、「イイ職業に就いたなぁ!」と思ったものだった。