第136回 「秋の名曲特集」
 近年は夏が出しゃばって、なかなか長袖の季節にならないわけだが、やっと秋めいた今日この頃…。そんなわけで今回は、まさに今現在にぴったりの、初秋の歌を選んでみた。

なのでお聴き逃し、いや、お読み逃しなきようお願いいたします。ではさっそく本題、ではあるのだが、まずはこのことから書かせて頂きます。

photo_01です。 1996年7月20日発売
夏から秋へバトンを渡す、サザンの名曲といえば

 行ってきた。サザンオールスターズの茅ヶ崎ライブ、最終日。僕自身は2000年の初回、前回2013年に続き、茅ヶ崎は三回連続の皆勤賞なのだけど、やはり感じたのは、時の流れ…。

でもサザンの凄いところは、45周年とはいえ、確実に「今」のバンドで在り続けていること。最新曲「Relay~杜の詩」は、総合チャート1位という成績のみならず、社会に対し、確固たるメッセージを発信した。ポップ・ミュージックというのは時代を映す鏡。この作品は、まさにそうなのだ。

で、今回の茅ヶ崎は、9月末から10月頭の開催だった。なのでセットリストに、秋を探してみたのである。そして今回、ぜひ取り上げたかったのは、「Moon Light Lover」である。

そもそもは1996年のアルバム『Young Love』に収録されていた作品。シングル・カットされたわけではないけれど、しばしばライブのセットリストに加わり、今回の茅ヶ崎でも歌われていた。

この歌は、[夏のルージュ]という歌詞から始まっていく。もちろん夏の歌、でもある。しかし途中で、[夏は遠去かる]というフレーズも出てきて、秋風の肌感も含まれる内容となっている。

曲調もミディアム・テンポであり、噛みしめるように歌われる美メロは情感豊かだ。

改めてタイトルに注目したい。“Moon Light”ということは、中秋の名月を思い浮かべたりもする。今年は9月29日がその日にあたったが、今回の茅ヶ崎ライブは、当日を挟み、前後の開催となった。

実際、ライブの夜にも綺麗な丸ぁるいお月様が、我々の頭上で微笑んでいた。

なお、僕は「Moon Light Lover」という作品は、桑田佳祐が書いた総ての歌のなかでもベストのひとつだと信じている。今回、改めて紹介できて、とても嬉しい。

photo_01です。 2022年9月14日発売
昼間は半袖、夜は羽織るものがあるといいでしょう

 テレビのお天気コーナーで、気象予報士の方がこんなアドバイスをくれる季節。確かに半袖か長袖か、迷ってしまう。迷った時は半袖ってヒトと、いや長袖ってヒトで、人生観も違うのかも知れない。いやいやそんなオーバーな、という声も聞こえてきそうだが…。

こういう話題となると想い出すのが、aikoの「夏恋のライフ」だ。まあ想い出すもなにもデジタル・シングルとしてリリースされたのは昨年だが(ポテト・チップスのCMに採用された)、曲を作ったのは19歳の頃だったと彼女は発言していた。

“半袖・長袖問題”は、この歌の歌詞のとても印象的な部分だ。これは失恋ソングなので、ひとつ前の恋は過去形。主人公が半袖か長袖か迷った時は、[あなたが決めてくれた]と歌っている。そして今は、決めてくれるヒトがいないのだ。

いまだに主人公は、決めてくれるヒトを欲しているのか、もうそういう存在は必要ないのか、このあたりが非常に気になる。

“半袖・長袖問題”は、単にトップスの袖丈のことにとどまらず、主人公の自立、みたいなところにも及んでいるのである。

photo_01です。 2018年10月3日発売
秋の示す季語も様々。カーディガンもそのひとつ

 さて最後は、新作『miss you』がリリースされたばかりのMr.Childrenの作品を。2018年のアルバム『重力と呼吸』に収録されていた「秋がくれた切符」である。

これはもう、タイトルからして紛れもなく秋を描いた楽曲だが、さらに細かく言えば、明らかに初秋の歌である。

公園の木々が落葉しはじめ、その一枚が鞄のなかに着地したさまを見て、これは何かの思し召しではないかと感じる主人公。タイトルの“切符”とは、つまりこの落ち葉のことなのだ。

この作品には、秋を感じさせる季語が落ち葉以外に登場する。それは、歌詞の冒頭に出てくる[カーディガン着た君]のカーディガンである。

これがなんとも、歌のさりげない小道具ではあるが、聴き手にふくよかなイメージを届ける。やがてセーターの季節となるが、その手前である。

「秋がくれた切符」は、くどくど説明してないから余韻が心地よい、良質な短編映画のような作品なのだ。

photo_01です。 2017年9月13日発売
番外編 この歌が本当に秋の歌なのか自信ないけれど…。

 最後はあいみょんの「風のささやき」。ただ、この歌が秋を描いているという確証はない。それでも興味深いので、取り上げてみた。

「風のささやき」には[ティファニーブルーの空の下]という表現が出てくる。それはもしや、秋の空なのではと思ったわけである。 でもこの場合、空の色は見上げた主人公の心情を表していて、実際の空とは無関係、という解釈も可能だ(どうやらそっちっぽい気もするが…)。 でもしかし、あくまでこれは秋の歌なんだと主張したいのは、もうひとつの要素、[雲は流れる][足早にね]のところ。これまた主人公の心情を表す、ということかもしれないが、この“流れる”雲というのは、まさにそう見える、秋独特の、すじ雲の可能性があるのだ。 正岡子規に、「砂の如き雲流れ行く朝の秋」という句がある。残念ながら、彼女に取材したことはないが、あいみょんは読書家で物知りのようなので、このあたりを意識した可能性もある。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
近況報告 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

紅茶といってもこだわりはないし、普通に売ってる日東紅茶でいいや、と思っていたが、ちょっと興味持ってネットで探したら、「アイリッシュブレックファースト」なるものに出くわした。アイリッシュ、と言われても、紅茶はいっさい馴染みなかったけど、買ってみたら、実に重量級の味わい。ミルク・ティーにぴったりのブレンドだった。そして今は、これを飲みながらヴァン・モリソンとか聴くのもいいかもな、歌声も紅茶も濃いぞー、なんて思っているのである。