玻璃草子

ぬばたまの君が黒髪の 褥に貸せるこの腕の
躰温も未ださめやらで 後朝の別離する

侘びぬれど 恋は水無瀬川 君ならでみだるべくもなく
振り向けば朝降る雪に 散りまどふ梅の白

あはれ君に咲く愛は
玻璃細工の花なりき
手折りなば 割れるいとしさよ
その指を切る かなしさよ

逢ひみての後の想ひこそ生命より深きものなれど
現世の人は生まれ来て果つるまでただひとり
足曳きの長き山道を君ひとりいかにか越ゆらむ
振り向けば君が振る腕に 散りまどう雪の白

あはれ君に降る雪は
玻璃細工の夢なりき
掌に落ちて とけもせず
また積もるほど 降りもせず

あはれ君に咲く愛は
玻璃細工の花なりき
手折りなば 割れるいとしさよ
その指を切る かなしさよ
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