山ざくらのうた

かあさんが好きだった 山ざくらの花は
今年も里より少し遅れて きれいに咲きました
新しいランドセル 小川に映ります
ねこやなぎの芽がふくらんで 春は静かに咲きました
たらの芽を摘み乍ら あなたに手を引かれ
歩いた山の深みどりは 今もかわらない
草笛はなつかしい故里の唄

夏休み 水遊び 牛がえるの声は
泥まみれで帰った時 かあさんの困った顔
盆踊り 新しいかすりの浴衣着て
転んだ膝小僧に あなたの赤チンキの匂いがした
麦わら帽 カブト虫 夕立ち 拾った仔犬
しかられて泣き乍らみつめた 赤い夕焼け
遠花火消ゆるあたりは母の里

稲刈り 栗 柿にカラス瓜
やきいも りんどう そして紅葉
あの子の吐く息 白い霜 やがて雪
あたたかなあたたかな あなたのような
膝のぬくもりが私にも もてるでしょうか
ささやかなしあわせ くるでしょうか

かあさんの好きだった 山ざくらの花は
今年も里より少し遅れて きれいに咲きました
×