吾亦紅

二本目の徳利を傾け乍ら 奴はふと思い出すように言った
明日の朝小さな山の分校の 子供たちに会いに来ないか
今奴は分校の校長先生 可愛い可愛い子供たちの
笑顔をおまえに見せてやりたい どうだ明日来ないか
折から秋の雨も上がって
かすかに 鈴虫鳴く
今俺は子供たちを野球できたえてる いつか本校に勝たせたくて
幾度も挑んで 幾度も敗れたが
そこはそれ 衆寡敵せず

山あいの分校は傾いていたが 子供たちは裸足で駆け廻ってた
四十いくつもの瞳に囲まれて 奴は先生らしく笑ってた
このすばらしい分校の子供たちは どんなすてきな大人になるだろう
はじける笑顔や瞳の輝きを どうすれば守ってやれるだろう
折から朝の霧も晴れて
まぢかに 大山見ゆ
手作りの野球場に歓声響く 僕はふと脇の草むらに
桑の実によく似た 紅い花をみつけた
子供が教えてくれた 吾亦紅

奴からふいに手紙が届いた
ついに本校に勝ったぞと
手紙を読み乍ら 子供たちの瞳と
雄大な山を思い出してた
奴の得意気な顔と 色あざやかに
小さく咲いた 吾もまた紅なり
人あざやかに 色あざやかに
小さく咲いた 吾もまた紅なり
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