アイス缶珈琲

適当な嘘でごまかして 仕事を抜け出して来たのさ 平日昼下がり
気に障る先輩の愚痴に 次々課せられるノルマに 嫌気がさしたのさ
普段はそれなりに真面目で あまり目立たない方だから 誰もとがめやしない
ロッカーに置き忘れてきた 缶珈琲が気になるけど まあ、どうでもいいや

誘われるように仰いだ空が今日だけは やたらと高くて広いのに
それを遮った人混みはただ 急ぎ足で下を向いてひたすら流れてる

ポケットに両手をしまって 溜息の理由を探して
こんな日になるなら 雨でも降ればいいのに
のんびり浮かぶ雲にさえも 追い越されそうな足取りに
今更気が付いた 行く宛も無いんだって事

知らない街でも歩こうか それとも静かに過ごそうか 持て余した自由
コンビニで小銭を数えて すがるような気持ちで掴む いつもの缶珈琲

“そのままの君でいいよ”と歌うスピーカー 飽きるほど聴いた曲なのに
無性に焦りだした僕はただ 急ぎ足で下を向いて逃げ道を求める

ポケットの両手を握って 溜息を必死で隠して
こんな日になるとは想像もしてなかった
せわしない向かい風の中 解けそうな靴ひもを見て
今更気が付いた このままではダメだって事

誘われるくらい綺麗な空を仰いでも“そのままでいい”と言われても
心はもどかしくなるばかりで 立ち止まって上を向いて泣きたくなるだけだ

ポケットから両手を出して 溜息も全部吐き出して
こんな日の自分もまだまだ変えれるはずだ
適当な嘘でごまかして とりあえず仕事に戻ろう
今ふと気が付けた 少しは前進出来る事

ロッカーに置き忘れていた 缶珈琲を一口飲む 思わず目を瞑る
夜中のつらい残業には ありがたいくらい冷たくて 苦味もちょうどいい
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