真っすぐな瞳のかあちゃん

レントゲン写真に
右・左逆に
すかされた白と黒の老婆

五番頸椎損傷
S字型に
ひん曲がった女の背骨

あゝ白衣の天使は しとやかにひめやかに
ベッドに横たわる
老いた俺の母親の
衰弱をたんたんと
食いちらかしてる

こきざみに震える
ただれたまつ毛
まばたきもせず俺の瞳を見てる

真っ赤な血しぶき
あびたまんまの
ゴム手ぶくろの若いドクターに

あゝ股間節が脱臼するほど頭を下げ
『どうか、どうか
よろしくお願いします。』と
あれは初めての
悲しい夜

俺の名前も忘れ
言葉も忘れ
だけど真っすぐな瞳のかあちゃん

あの日の約束
消えてった約束
死んでも忘れるものか この俺が

あゝ哀れ変わり果てたかあちゃんの人生よ!
悲痛な悲しみ
悲痛な苦しみ
悲痛な優しさの
瞳のかあちゃん

あゝ早くお家へ連れて帰るからよ
俺の二階の部屋から
五月の風を受け
天高く泳いでる
五匹のこいのぼり

あゝ早くお家へ連れて帰るからよ
あゝ見せてあげるよ空高いこいのぼり
あゝ早くお家へ連れて帰るからよ
言葉を忘れて
しまっただけの
真っすぐな瞳の
俺のかあちゃん

あゝ早くお家へ連れて帰るからよ
あゝ早くお家へ連れて帰るからよ…
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