雪ひと夜

三味線(しゃみ)を叩けば 思慕(おもい)がはじけ
あんた恋しと 撥(ばち)が泣く
好きと云う字を 手鏡に
口紅(べに)で愛しく 書いて待つ
雪は袈裟切り 寂しさに
化粧も凍える 雪ひと夜

逢えば乱れる 蹴出(けだ)しの裾も
襟足(えり)をくずして すがりつく
肌も染めます その指が
女心を 惑わせる
髪のほつれも そのままに
あんたの移り香 雪ひと夜

吹雪切り裂く 列車の音が
未練残して 消えてゆく
別れ言葉の やさしさに
暦(こよみ)めくって 逢える日を
赤い印で 書き入れて
津軽の春待つ 雪ひと夜
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