虞美人草

パラソルをかたむけ あの人は笑った
“兄さんはあの町で 元気かしら”と
ただ何も言えずに うなずいた このぼく
大好きなあの人は 兄貴の恋人
虞美人草の花が 日ざしにゆれる
めまいがしそうな 昼さがり
“兄さんにないしょ”と ぼくの汗ぬぐった
ハンカチの移り香が 哀しかったよ

夕月を見上げて あの人は泣いてた
“兄さんを誰よりも 愛してたの”と
絵のような横顔 いつまでも 見つめて
もう二度と帰らない 兄貴を憎んだ
虞美人草の花は いつしか散って
ぬくもり恋しい 夕まぐれ
初雪が来る頃 あの人は嫁いだ
つぎの朝 ふるさとを捨てた ぼくだよ

虞美人草の花が 咲くたび思う
初めて愛した 人のこと
あれはまだ この世が 美しく見えた日
あの人も ふるさとも 今は遠いよ
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