名月綾太郎ぶし

芸道修行の 辛さより
あかぬまなこは 尚辛い
いとし女房の 三味線が
今日も壷坂 霊験記
泣いて語れと 泣いて語れと
背をうつ

妻は夫をいたわりつ
夫は妻に慕いつつ
頃は六月中の頃
夏とはいえど片田舎
木立の森も いと涼し

風が冷たく 身を責める
まして俺らは 目無し鳥
知らぬ他国の 旅の宿
やせた女房の 手をとって
何度泣いたろ 何度泣いたろ
拝んだろ

夢の十年 ひとむかし
お里沢市 壷坂の
語り文句を そのままに
今宵三すじの 糸の音も
さえて心に さえて心に
返る春
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