小袖の手

闇も見えぬ 無明の 淵から
添うこともなく 散りぬる 此の身 嘆く
忘れられた 形見の 衣手
まほろばへと 戦慄く 手房 伸ばす

眼を 凝らすには 時間が 無い故
思い出して綻ぶ 前に

貴方を 待っている

矯めし瞳 眇めつ 顰みて
然う 音も無く
非太刀を 袈裟に 降ろす
鮮血まで 愛して 月の光に
騙された儘で
噫 「許せよ」と 呟く 聲が 離る

哭を 絶やすのは 終焉が 無い故
さあ 連れ出して 衣桁の 涅を

貴方を 待っている
貴方を 呼んでいる

ほら 差し伸べて 其の手を
良らし心で 手向けて
襟に 這わせた 此の 手で
そっと 輪を描いて

貴方を 待っている
貴方を 呼んでいる

闇も見えぬ 無明の 淵から
添うこともなく 散りぬる 此の身 嘆く
忘れられた 形見(の 衣手
貴方だけを 此の手で 探して
×