東京青春朝焼物語

両足が鉄の棒のように 痛かった
お前と二人で不動産屋を廻った
はり紙を 何度も何度も なぞりながら
井の頭線で五つめの駅で降りた
愛想の悪い酒屋で 俺は缶ビールを買った
植木鉢の下に 鍵を置く事に決めた
荷ほどきできない ダンボール箱を背中にして
俺たちは えびのように丸くなった

今日から俺 東京の人になる
のこのこと 来ちまったけど
今日からお前 東京の人になる
せっせせっせと 東京の人になる

二人でおんぼろの自転車にのり
野良猫の“チロ”を お前は拾ってきた
不釣合いな花柄のカーテンには困ったけど
南向きの窓が たまらなくよかった
豆腐屋のばあさんは ゴムのエプロンに長靴で
いつも そこら中に 水をまいていた
「ごめんよ」が
このばあさんの いつもの挨拶で
そこを通るたびに 笑ってた

今日から俺 東京の人になる
のこのこと 来ちまったけど
今日からお前 東京の人になる
せっせせっせと 東京の人になる

カンカンと遠くで 踏切が鳴いてた
夕暮れ時の雨は 嫌だった
つっかけを履いたまんま 女ものの傘をさし
角のバイク屋へ空気入れを借りに行く
鉄柵の向うからは 空が見えなかったけど
暮らすのに何の理屈も いらなかった
ただ初めて お前の台所に立った背中を
抱きしめたのは ささやかな俺の覚悟だった

今日から俺 東京の人になる
のこのこと 来ちまったけど
今日からお前 東京の人になる
せっせせっせと 東京の人になる
今日から俺 東京の人になる
のこのこと 来ちまったけど
今日からお前 東京の人になる
せっせせっせと 東京の人になる
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