弥生

三月生まれのはずだから
仮の名前で弥生と付けた
男か女か知らぬまま
ふと閃めいて そう付けた

麻酔が醒めて 目が覚めて
側に居たらば不安げに
覗き込む顔 探してた
サイン残して去った人

ごめんね ごめんね 本当にごめんね
百万粒の涙なら
弥生、あなたの悲しみ消せるでしょうか

許して 許して 私を許して
心底愛した人の子と
弥生、言ったら返って怒るでしょうね

かごめ かごめ 籠の中の鳥は
いついつ出やる 夜明けの晩に
鶴と亀が滑った
後ろの正面だあれ?

迷って悩んだ結論に
人に知られず 両手合わせた
その後 出会った夫にも
申し訳なく思う日々

夢から醒めて 目を覚まし
うなされてたと指摘され
あなたの名前呼んだかと
胸が震えて痛む朝

私に勇気がなかったせいなの
百万回の言い訳は
弥生、あなたの心 癒すでしょうか?

乳房をまさぐる小さな掌
現つのような夢だから
弥生、ひととき幸せ味わっていた

あなたが居たらば妹に
なるはずの子はすくすく育ち
時には我がまま言いながら
娘盛りを謳歌する

麻酔が醒めて 目が覚めて
愚かな自分 責めていた
もっと大人になれてたら
あなたのこと守れたと

悔やんで 悔やんで 馬鹿だと悔やんで
百万回の後悔も
弥生、あの日の私に戻せはしない

歌って 歌って ひっそり歌って
独り呟く子守り歌
弥生、あなたの耳には届くでしょうか

この子よう泣く 守りをばいじる
守りも一日 やせるやら

三月生まれのはずだから
仮の名前で弥生と付けた
あれから幾度も花咲かせ
春は思い出 連れてくる

優しい夫 愛する子
囲まれながら 時が行く
月命日に菓子供え
あなたのことを忍んでる

ごめんね ごめんね 本当にごめんね
百万遍のごめんねは
弥生、あなたの御魂を慰めますか?

今年も幾千 幾万 幾億の
薄紅色の花びらで
弥生、無数のあなたが青空を舞う

さくら さくら やよいの そらは
みわたすかぎり
かすみかくもか においぞ いずる
いざや いざや みにゆかん
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