誘蛾灯

犬の鎖に引きずられ 川辺を歩けば
柿の実色の夕空に 警笛(ふえ)鳴らす二輌の電車
母の夕餉(げ)も 手が欲しい頃
そろそろ小太郎 帰ろうか
春は片栗の花 精霊流しに夏は逝き
この静かな 幸せを
ふり返りも しなかった
今日までがあの恋が あぁ 憎らしい………
もの怖じしない 川原の虫が
突っ込む 誘蛾灯
男を何も 知らない頃の
あたしが群れて 落ちていく

お肉も変わらぬ 量(はか)り売り 川辺の市場は
噂は聞いているくせに おじさんは「おまけ」と微笑う
母を代わりに見守って 来た
おまえに小太郎 ご褒美ね
秋は蕁麻(いらくさ)の花 白鳥渡れば冬隣
立ち直れる 筈もない
そう思えた 傷痕も
柔らかく 癒えている あぁ 故郷よ………
知恵など持たぬ 川原の虫が
究っ込む 誘蛾灯
男の嘘に 釣られて生きた
あたしが群れて 落ちて行く

もの怖じしない 川原の虫が
突っ込む 誘蛾灯
男を何も 知らない頃の
あたしが群れて 落ちて行く
あたしが群れて 落ちて行く……
×