瑠璃光

振り向けば薬師寺東塔の
軒を貫く眉月に
折から深き暁暗の
山際幽か茜雲

君の手を朧に引きながら
こころ波打つ春の暮
かはたれ時の鐘の音も
すでに尽きたか西の京

道に迷った訳ではなくって
闇にはぐれた訳でもなくって
過去と未来のすれ違う
重なる時の十字路に
立ちすくむ 恋

振り仰ぐ薬師寺東塔の
一千二百有余年
一瞬のまた永遠の
沈黙のその交響曲(シンフォニア)

ふるえる指でたどる二人の
短く長い物語
秋篠川に写すのは
すべての前かすべての後か

嘘を信じた訳ではなくって
真実(ほんとう)を疑る訳でもなくって
善と悪とが行き違う
逢魔ヶ辻の背中越し
立ち眩む 夢
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