しあわせの小さな庭

気の病に犯された夢遊病者のように
幾日も四畳半に閉じこもりっぱなし
引きちぎった電話線をてめえの首に巻きつけ
『死にてえ』などとお茶目にかわいぶってみた

やっと手に入れた“花の東京”200坪の土地
適当な家をおっ建てた
隔離されてる俺の部屋の窓から
みごとな咲きっぷりの赤と白の花々たち

ひと群れの太い木々たちが織りなす花々は
黙ったまんま腐る俺をいやしてくれる
そして俺は不安と恐怖からとき放たれる

我が家の庭先に小さな畑を
妻と三人の子供と耕し造った
いっしょに汗をかきかき種をまいた
『しあわせの花がどうか咲きますように…』と

お祈りしてからひとつ目の夏の終り
やっと花を咲かせた天高い向日葵
俺たち東京 五人家族の土の上から
灰色の空に垂直に向かう五本の向日葵たち

明日、俺 40回目の誕生日だ
花を見上げる俺たちはなぜか黙っている
瞳たちよ、このまま真っ直ぐはるか天まで届いてゆけ

やがて咲いたばかりの背い高ノッポの向日葵も
朽ち果て、しおれ、うなだれ、腐り、土にかえる
その時花の命の短いはかなさを
天を仰ぐ我が子は初めて知るのだろう

“希望”という名の裏側の絶望に
叩き落とされ死にたくなる時もあるさ
いつか家族で見上げた空の高さを想い出して
人より傷つき優しく厳しい人生(みち)をひたすら願うのだ

許してやろう、よっぽど辛かったんだろう
ほっといてやろう、よっぽど痛かったんだろう
ほめてやろう、よっぽど悲しく淋しかったんだろう

妻よ、君もいつの間にか三人の母親になった
君の立つ台所からはしあわせが見えるかい
庭先で餌をついばむ雨にぬれた五羽のニワトリを
老いた俺の親父の背中が必死で追いかけてる

きっと遠い昔、君も少女だった
ささやかな暮らしでも大切な人がいたはず
今、君の寝室に立てかけてある死んじまった
君の親父の写真から何か聴こえるかい?

悲しい瞳で子供たちのしあわせを語ろう
悲しい耳で子供たちの優しさを語ろう
そして口は、ただただ物を喰らう為だけに努めるのだ

悲しい瞳で子供たちのしあわせを語ろう
悲しい耳で子供たちの優しさを語ろう
そして口は、ただただ物を喰らう為だけに努めるのだ

しあわせの小さな庭で 天まで届け向日葵たち
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