お吉

ひどい!ひどいじゃございませんか
いくら私がハリスさんの処へ行く事を
承知したからといって…

涙を積み荷の 黒船が
おんなの運命(さだめ)を変えました
浜に浜木綿 咲いたけど
泣いて爪噛む 爪木崎
伊豆はしぐれる 下田は曇る
ああ お吉は 辛(つ)ろうございます

鶴さんそりゃァ あんまりだァ
たとえ 天城の山が崩れても
このお吉を 離すもんかと言った
あれは嘘だったのかい
あゝ こんな哀しい筋書きを 誰が書いたんだい
夢さ 夢にきまってるよ…

お酒よおまえに 罪はない
この世の仕組みに 毒がある
うわさ指さす 石つぶて
耐えて下田の 糸やなぎ
生きる証の 灯りがほしい
ああ お吉に 明日は見えません

あゝ お酒がほしいよう
お酒で何もかも 忘れてしまいたいのさ
愚痴も涙も涸れ果てました
あゝ あたしの人生って なんだったんだろうねぇ

名もない路傍の 草だって
季節が巡れば 春の顔
破れ三味線 黄八丈
泣くな下田の 明け烏
夢の続きは あの世とやらで
ああ お吉は もう泣きません

あゝ 寒い… 鶴さん 今行くからね
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