カーテンコール

12人しかいない安い芝居小屋で
役者は汗をかいて必死に演じてる
何度もかみながら何度もやり直す
照明なんてない 暗い晴れ舞台

退屈そうな客 『早く終わらないか』
催促している冷酷な視線
それでも奴は目をそらさずに誠心誠意の演技
目つきひとつで存在の放棄なんてしたくない
誰にも奪われたくない

『いつかはそこにある階段を昇って、
完璧な姿で生きていきたいんだ!
たくさんの余裕を持って…』

役になりきろうと台詞を丸暗記
髪も伸ばして必死になりきった
人あたりが悪い奴なので誰とも口をきかずに
塞がってばかりいたら
大事な人が離れていっても気づけなかった

『客観的にみて価値はないけれども、
僕が存在する理由がそこにあり
そこでしか意味をなさないから』

『やがて視界をさえぎっていく幕を
ずっと見届けてすべてが終わって
カラの客席におりてみた
なんだかそこにあったものが怖くて仕方がなかった
現実と夢をはっきり区切ってたような気がしたんだ』
そして奴はひとりきりでカーテンコールをする

そこから見えたものは等身の自分
何もない景色 見守っていたのは13人目の客
離れていった大事な人だ
『夢を見せるのが僕の生きがいだよ
夢を与えて君といたかった
余裕をもつために役に没頭して
カーテンコールまでやっと辿りついた
でも一人になってはじめて気づいたよ
存在だけなのにやたらと不自然だ』

影は光になって 辺りを照らして カーテンは下りた
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