妻を恋うる唄

いつでも荒れた手をしていたね
エプロンの端まさぐりながら
首をかしげて笑うのが
朝のお前の癖だった
送ってくれる人もなく
毎朝勤めに行く僕を
お前はどこで見てるんだ
僕の声さえ届かない
空へ昇っていったきり
お前は帰って来ないのか
お前は帰って来ないのか

お前の髪の匂いがするよ
ひとつの櫛をふたりで使う
これが貧しい僕達の
いつもしてきた癖だった
曇った鏡ふきながら
涙こぼしている僕を
忘れてどこへ行ったんだ
僕の眼にさえ届かない
雲のかなたへ行ったきり
お前は帰って来ないのか
お前は帰って来ないのか

昨夜は雨が降りつづいたよ
巣を失った小鳥のように
あてもないのに外へ出る
雨の降る日の癖だった
黙って肩をしめらせて
送りどころのない愛を
ひとりで夜に捨てるんだ
あつい想いも届かない
とおいところへ行ったきり
お前は帰って来ないのか
お前は帰って来ないのか
×