近松門左衛門原作「冥途の飛脚」より 梅川

逢うこと叶わぬひとに逢いたくて… 逢いたくて…
重い不幸の罪科(つみとが)を 今は地の果てまでも追われる身
いとしい忠兵衛さまを誰が 誰がこうさせた
みんな このわたし故… この梅川ゆえに…

情念(あい)をつらぬく この命
隠しきれない 阿弥陀笠
生きられるだけ 生きましょう
添える時刻(ぶん)だけ 添いましょう

人目忍んで 後や先
足も乱れる… 隠れ雪

忠兵衛さま この世に未練などありませぬ
この梅川は あなたを離したくない…
身は粉々に砕かれようと 二人で燃えつきたい…
あなたに逢えてこそ 女に還れました…
逢えて 逢えてよかった…

声を立てずに 泣くことは
いつか覚えた 身についた
生きられるだけ 生きましょう
添える時刻だけ 添いましょう
罠にかかった 雉子(とり)のよに
闇におびえる… 峠越え

お役人さまお願いで御座います… 見納めで御座います…
お父上の嘆きが目に入り
忠兵衛さまはあの世へ行けません
お情けあらばどうか どうか顔を包んであげて下さい
腰の手拭いで目を 目を 目を隠して下さい…
お役人さまー…

罪の深さを 大和路に
詫びて死にたい この命
生きられるだけ 生きました
添える時刻だけ 添いました
せめて冥途の 草枕
紅い血が舞う… 雪が舞う

忠さま… 忠さま… 忠兵衛さまー…
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