手紙

名前も知らない君に「拝啓」
書き出しの文字 思ったより小さくて
君が飛んだ火曜日の快晴
ひとつだけ開いた窓に切り取られた

大人たち「いじめはない」
お揃いの黒い服で一礼
「ずっと忘れない」と先生
机どかして名前消すんだ

君が最後見た空が青くたって
そんな色 価値がないただの反射光
君が最後に笑えていたらいいなって
少しだけ思った 私に見せないでいいから
届かなくていいから

名前も知らない君使って
たとえどんな嘘ついても君は言い返せないね
ペンのインクが切れたふりして
最後の一枚にできたらよかったのにな

きっと答えなんてないけれど
それがあれば歌はいらないね
私は君を命を心を
利用してるのかもしれないね
でも

君が最後聴いた歌はどんな歌? ねぇ
私のことなんて許さなくていいよ
君が最後に笑えていたらいいなって
もう一度思った 私に見せないままでいいよ

書きそびれたことなんて全部
小さい文字で追伸に詰めるよ
代弁者とか言われるかな
違うと君しかわからないか

「最後見た空は綺麗だった」
君のこと無視した青なのにどうして
「最後聴いた歌なんて覚えてない」
「ただあの日の空は青くて綺麗だった」
なんてね

君が最後見た空が青くたって
そんな色 価値がないただの反射光
君が最後に笑えていたらいいなって
また少し思った 私に見せないで
他の誰にも見せなくていい
届かなくていいから
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