港町三文オペラ

あんたになんか
惚れてしまったばっかりに
海猫を見つめて暮す女となった
何処へでも行けるようにまとめた荷物
ころがして 腰かけて 涙ぐむ

おまえになんか
夢を託したばっかりに
酔いどれの真似して眠る男になった
水割りで酔える間はよかったけれど
生(き)の酒を 一息に 流し込む

扉のすき間から 流行り歌
季節の変りの にわか雨
男と女の 男と女の
港町三文オペラ

あんたはやっぱり
どこか甘えていいかげん
ガラあきのシネマのようにしらけてしまう
ここよりももっと北へと地図など眺め
ためいきをつくだけの昼下がり

おまえはやっぱり
逃げるばかりの人生を
落着いて暮せる夢をこわしてばかり
北へ行く汽車の切符を奪って捨てて
もう此処で終りだと抱きよせる

イカ焼く匂いだけ 露地にあり
汽笛をかき消す 波の音
男と女の 男と女の
港町三文オペラ
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