荒川峡から

赤いコートの 女がひとり
荒川峡の 駅に降り立つ
錦繍(きんしゅう)の 山の波
瀬を渡る 風がなつかしい
あなたもう さがさないで
わたしはひとりで 泣きにきました

愛のいさかい ことばの刃(やいば)
たびかさなれば 傷がふかまる
渓谷(たにあい)の 吊り橋を
さびしさにたえて 渡りきる
あなたもう さがさないで
わたしは涙を 捨てにきたのよ

山路たどれば 日は暮れてゆく
いで湯の里に ともる灯火(ともしび)
掌を合わす 道祖神
悲しみが少し かるくなる
あなたもう さがさないで
わたしはわたしの 人生(みち)を行(ゆ)きます
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