父の唄

ねえ、ぱぱって呼ばなくなったのは
いったい何時からだろうね。
あたしが産まれる前から、
あたしの名前を呼んでくれてたのに。ね。

あなたをたくさん傷つけたし、
あなたにたくさん傷つけられた。
そんな不器用なふたりだから、
あたしも、あなたも泣いてるんだろうね。

煙草の匂いも、
大きな背中も、
大好きなその声も。
全部、ぜんぶ。

今では顔を合わせることさえ、
難しくなってしまったけれど。
ほら、こんな馬鹿みたいなうた歌って、
平気なフリで明日も生きるよ。

ねえ、ぱぱ あなたって人は
ほんとに何もわかってないのね。
あたし大人になって、あなたの事が
すこしわかるよ。

あなたがくれたギターも、
好きだったあの歌も、
言えなかった言葉も。
全部、ぜんぶ。

今でもまだ覚えているかな。
あたしを、愛してくれてたこと。
ほら、こんな馬鹿みたいなうた歌って、
あなたの事想って泣いてしまった。

辛いとか悲しいとか、いつでも目を逸らしてきた。
誰かの所為にして生きていくのは辞めたから。

今では、声も忘れてしまったけど。
遠い昔の記憶を、抱いて歩くよ。
ほら、こんな聞くに絶えない歌声で、
届かぬうたをあたしは
歌うよ。

ねえ、ぱぱ。
あなたがいたから。
あたし、今日もうたうよ。
あなたといつか笑い合いたいな。
そんな、未来がくればいいな。
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