徒花夢現

胸の中には
ただひとつだけ
祈りがあった
祈りがあった

乾く喉を 掻き毟るように
願えども 願えども
それは とうに 天つ日に溶け
夢に消え 夢に見る

幽玄の 際を出で
手折る花 零れて
竦む足
逃げ場なく
立ち尽くす 独り

遠くより 聞こゆるは
闇の声 呟き
苦しみの 現し世に
背を向けて 独り

胸の中には
もうひとつだけ
願いがあった
願いがあった

命 削り 描き続ける
徒花は 紅の色
血潮 赤く 雫となりて
足元を 塗りつぶす

戻れない あの場所を
ここでまた 思い染め
落ちてゆく
泥の淵
眠りては 揺れる

遠くより 聞こゆるは
知らぬ声 まぼろし
苦しみの 現し世は
遠くなり 独り

ただひとり
闘いに 血塗られた 両手を
見つめては 繰り返す
懐かしき 言葉

幽玄の 際を出で
ここで今 離る路
切り裂いた 夜はまた
墨色に 溶けて

遠くより 聞こゆるは
闇の声 かすかに
咎の中
果てもなく
繰り返し 独り
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