ドライヤー

「お願い、乾かして」
「嫌だよ、面倒臭いから
でもどうせやるまで頼むんでしょ?」
僕は嫌々ドライヤーをかけた

そんなやり取りがほぼ毎日続いて
いつしか当たり前になってた
だけど紅葉の葉のように君は
冬の冷たい風に吹かれていった

君を嫌いな振りをして
君を嘲笑いたくて
そうしたらきっと忘れられるはずと
そんなこと思っても
君を嫌いになれなくて
君に忘れられたくもなくて
ダメだね 僕のこういうとこ

「お願い、乾かして」
その言葉が聞きたいって何度思ったか
君が録画してたあの番組
今週でもう終わるんだってさ

本当はね 嬉しかったんだよ
ドライヤーしてって言ってくれること
君とひとつになれてる気がして
僕を必要としてくれてる気がして
君の髪の匂いを思い出す

君を嫌いになりたくて
君を嘲笑いたくて
そうしたらきっと忘れられるはずと
そんなこと思っても
君を嫌いになれないんだ
君に忘れられたくもないんだ
ダメだね 僕のこういうとこ

転がってるドライヤー
きっと立ち直れないや
今はもう役に立たないガラクタ
「ねぇ、君に会いたい」
届かない言葉つぶやく
×