赤色と水色

暮らした安普請は床が鳴るけど、
君の足音がする。私より軽い足音。
どこに住むんだっけ。都心の方だっけ。
それならちゃんとしているだろうね。

謝ることじゃないのにごめんねなんて言うのは
そういうことだろうね。もういいよ。
笑ってくれたらいいよ。一番見慣れた顔がいいよ。
朝まで話してよ。移動中に寝られるでしょう。

コーヒーを淹れようか。また歯磨きをしなきゃ。
赤色と、水色。同じコップの待ち時間。

ふらっと出掛けるような足取りで、
部屋着のように最後の玄関を君は跨ぐ。
泥縄的に片付いた部屋とベッド。
誰が散らかしていたんだろうね。

あとで叱らなきゃな。本当に。

君の形に沈んだソファーと
飲みかけのマグ、ふちの残滓。
日毎、私から居なくなっていけ。
雑な味付けの料理も、
泡が立ち過ぎのスポンジも、
なんとなく想像つくよ。

会えない距離じゃないこと。会いたい距離になったこと。
なんていうんだろうね、こういうの。
湿っぽく終わるはずが、なに普通に話していたんだろうね。
泣けたらかわいいかもね。

コーヒーが冷めちゃった。温め直そうかな。
君なら構わず飲んでいただろうか。

謝ることじゃないよ。もういいよ。
謝られた方がしんどいよ。
きっと慣れていくんだね。
なかったことにはならないけど。
思い出の対価は、忘れないことだろうか。

君が居ないのはなんていうか、困るよ。
赤色と、水色。まだ仲良し合っている。
同じコップの中。
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