林檎抄

ひとりの女が林檎をかじりながら
私の部屋にやって来たのは
灰色の長雨に くさくさしていた午後でした

不幸と土産とさびしく笑いながら
ホットな酒をのんでいるのは
その昔 少しだけ 心をかわしたひとでした

何も話すなよ 何も聞かないから
居心地がいいのなら いつまでもいるがいいよ

ひとりの女が林檎を一つ残し
私の部屋を出ていったのは
待ちわびた夏の陽がぎらぎら輝く朝でした

不幸が好きだと 唇ゆがめながら
男のもとへ去って行くのは
運命に流されて おぼれているよなひとでした

何も話すなよ 何も聞かないから
ひからびた林檎だけ テーブルに置いておくよ

何も話すなよ 何も聞かないから
ひからびた林檎だけ テーブルに置いておくよ
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