枯木灘 残照

両手(もろて)にて君が冷えたる頤(おとがい)を
包みていしは冬の夕駅
君に妻われに夫(つま)ある現世(うつしよ)は
姫浜木綿(ひめはまゆう)の戦(そよ)ぐ明かるさ
歳月(とき)はながれて 歳月はながれて いまひとり
あゝ残照の枯木灘
ひたすらにあなたのもとに翔けてゆく
煌きつづけよ光の凪よ

取り落とし床に割れたる鶏卵を
拭きつつなぜか湧く涙あり
乳房(ちちふさ)の尖(さき)に点(とも)れる螢火(ほたるび)の
ほとほと紅(あか)しほとほとやわし
夢に疲れて 夢に疲れて 立ちつくす
あゝ残照の枯木灘
子午線を越えて吹き来る潮騒よ
夜のしじまにこの身も攫(さら)え
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