夢二組曲

悲恋の夜の月あかり
窓にまだらの迷い猫
遠いラジオのノクターン
膝に夢二の画集のせ

待てどくらせど
こぬひとを
宵待草のやるせなさ
こよひはつきもでぬさうな

闇から抜けた汽車の駅
砂利のホームの捨て煙草
谷にこぼれる白梅を
涙ながらに見る乙女

きのふのための悲しみか
あすの日ゆえの侘(わび)しさか
きのふもあすもおもはぬに
この寂しさはなにならむ

悲恋の夜の雪あかり
赤い手袋赤い傘
としは十九を前にして
どこに捨てよか幼な顔

二人ゐてさへさびしいものを
一人でてきく暮の鐘
死んでしまへとなぜつかぬ
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