幸福の岸へ

月の夜 窓叩くツバメ
FMは 点(つ)けたままに去ろう
気まぐれの旅に見えて
小舟は 海へ滑りだす
あなたから 電話も途絶えた
乗り継ぎの 駅の名も知らず
家を出た 私はもういない
生きてゆく痛みよりも
耳に残る声がつらい
その国へ 電話は鳴らない
幸福の岸 あなたに逢いに
オールを漕げば重い 真珠の海をうらむ
ロープで切れた 指の傷さえ
あなたへ近ずくなら
あいらしくも見え いとおしい

一錠の 薬に似ている
一葉の 色褪せた写真よ
死んでしまいたくもあり
生きて巡り逢ってもみたい
その国へ 電話は鳴らない
歌うことなく 微笑むことも
ただひたすらに あなた
オールを漕ぎ続ける
取り残された ツバメと二人
向日葵の咲く岸へ
真珠の海を 漕ぎ続ける

幸福の岸 あなたに逢いに
オールを漕げば重い 真珠の海をうらむ
幸福の岸 あなたに逢いに
向日葵の咲く岸へ
真珠の海を 漕ぎ続ける
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