君が海

この夏が最後になるなら その横顔だけでいいから
ずっと忘れない

八月の教室には もう誰もいなかった
吹奏楽たちと埃が 少し溢れた
なんの訳もなく 寂しくて 水槽に浮かんでた
幸福も 不幸も まるで 泡みたいだ

母に似た癖毛の背中に
季節より先に 君のこと乗せてた

あの海を待っていた
ただ蝉が鳴いていた
この夏が最後になるなら その横顔だけでいいから
ずっと忘れないように

約束通り 電話した
午前0時過ぎ 花火だけ持って
砂時計は残りわずか
自販機の明かり 君と逃げ出した
青さが二人を締め付けて離さないような
またただ夢を見ていた

団扇に穴を開けて覗いた
氷菓子を舐めた君が笑っていた

ただ恋に落ちていた
頬に汗をかいていた
線香花火が落ち消えた後に
二人は黙って近付き 暗闇でまた口づけた

何度も襲ってきた
記憶が残っていた
想い出を校庭に埋めて 子供たちは皆大人になった

枯れた朝顔
魔法が解けるようだ
八月は眠るように目を閉じた
砂を止めたくて横にしていた 砂時計を元に戻しても
今は

あの夏がもう来なくても
いつまでもあの海が君

君が海
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