わらの犬

ぼくの街では 朝になると
いやにすました海風が 路地裏を吹いて
きみはお化粧 うれしそうに
とっても綺麗だと思う
つい 目をそらします

ぼくらは わらの犬
去りゆく景色を 見とどけもせずに
ただ ただ 語り合う
たがいのしるしを 遺すように

遠くの丘では 子供たちが
覚えたばかりのくちづけ 戯れて歌うように
ぼくは だれかが 子供たちのそれを
咎めはしないかと 気が気じゃないんです

ぼくらは わらの犬
ありもせぬものを 信じぬくために
ただ ただ 生きてゆく
だれかのしるしを 辿るように

いつか そのしるしを見つけた学者が
首をかしげるだろう
まるで なんの価値もないものを
なによりも大切にした ぼくらさ
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