それは美しい伯母様の家へ行く道であった
それは木いちごの実る森へ行く道であった
それは夕暮ひそかに電話をかけに行く道であった
崩れ落ちた町のなかに
道だけが昔ながらに残っている

いそがしげに過ぎてゆく見知らぬひとびとよ
それぞれがそれぞれの中に違った心をもって
それぞれの行先に消えてゆくなかに
僕は一個の荷物のように置き去られて
僕は僕に与えられた自由を思い出す

右に行くのも左に行くのも今は僕の自由である

戦い敗れた故国に帰り
すべてのものの失われたなかに
いたずらに昔ながらに残っている道に立ち
今さら僕は思う
右に行くのも左に行くのも僕の自由である
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