風樹の母

あれは一昨年(おととし) 二月の半ば
朝からつめたい 霙(みぞれ)の日
親をたよるな これから先は
世間の辛さも しょっぱさも
お前が お前で 始末をつけろ

わかったか わかったね
別れの駅で…母さんの
あの言葉忘れない 忘れない

匂う卯の花 五月の五日
届いた小包 柏餅
涙こぼすな 泣き言云うな
いいことばかりを 追いかけて
歩けば躓(つまず)く どこかで転ぶ

わかったか わかったね
故里遠く…母さんの
あの便り忘れない 忘れない

月も半欠け 九月の終わり
あれから二年の 杉木立
生きているから 花実も咲くと
働きづくめで 目を閉じた
きびしさ やさしさ 袷(あわせ)の絣(かすり)

わかったか わかったね
夜空の星の…母さんの
あの姿忘れない 忘れない
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