茅蜩

君が剥く梨(ありのみ)の香りの記憶
二十世紀は遠ざかりゆく
茅蜩(ヒグラシ)のかなかなかなと去りゆけば
山の端に宵の明星
忘れ色に舞う姫蛍
桜の散るように
一つ消え二つ灯してまた消えて
誰もいなくなった
音もせで思ひに燃ゆる蛍こそ
鳴く虫よりもあはれなり

夕去ればいつの間にやら機織女(きりぎりす)
季節も恋も遠ざかりゆく
暗幕を果物ナイフで裂く如く
街の背に白い三日月
胸の煙は消えもせず
恋の名前を呼ぶ
一つ消し二つ灯してまた消して
君を数えた
己が火を木々に蛍や花の宿
二十世紀は遠ざかりゆく

茅蜩(ヒグラシ)のかなかなかなと去りゆけば
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