北手紙

前略と書きかけて 震える指に
どれほどの悲しみを 略すのでしょう
華やかなこの街で 幸せ‥と書きました
いいことばかりで 埋め尽くす手紙の ピリオドが
ほんの少しゆがんで あゝ
寒い胸に焼きついた

何もない北の町 雪はしんしんと
夜汽車だけ 一筋のともしびだから
待ちわびてお前だと 信じてしまいます
かな釘文字の 母からの手紙を 握りしめ
都会(まち)でひとり初めて あゝ
声を上げて 泣きました

故郷(ふるさと)を出たときは 春まだ浅く
消え残る雪景色 目にしみました
夜汽車には乗りません 始発で帰りたい
過ちばかりの 東京のくらしを うちあけた
自分宛の手紙を あゝ
胸の奥に 抱きしめて…
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