北向き地蔵

あの人の暮らす街を背にして
北向き地蔵は北ばかり見つめる
夜明けも日暮れも拝むふりして
私は南の空ばかり見ている

春になったなら迎えに来るよと 待ちわびてすでに三度目の春
砂時計のように落ちる藪椿 逢えない月日の数だけ供えた

届いた写真は ただ一度見ただけ
大人びたあなた 異国の人のようで

釈迦堂山にともる満月
眠らぬ街にも月は昇りますか
川べりの花と二連の水車が
夢追い人のため 子守唄奏でる

爪の先秘かにのせる桜色 わたし誰のために綺麗にするの
写真のあの子と鏡の自分と 比べて思わず口紅拭った

そうね私も あたらしい季節へと
一歩踏み出すわ 後ろを振り向かずに

あの人の暮らす街を背にして
北向き地蔵は北ばかり見つめる
涙がほろりとこぼれる前に
私も南の空を背にして歩く

釈迦堂山にともる満月
眠らぬ街にも月は昇りますか
川べりの花と二連の水車が
夢追い人のため 子守唄奏でる
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