夢しだれ

吉野の里の桜には まだ早過ぎると君が
僕の指をとり誘う先は 春に霞む斑鳩の
古の夢殿にひとめぐりめぐり会えば
ふり仰ぐ満開の桜 誰が名付けたのか夢しだれ

思えば長い道程を 歩き続けているようで
愛と呼ぶには遠過ぎて 恋というには近過ぎて

迷え この道は薮不知
来し方知らず 行方知らず
君のかわりに 僕の頬を
花びらが打つ 風 風

昼閑かなる秋篠の妓芸天女の面影を
君の横顔に写し 明日は都へと帰るか
風の間に間に滞る 巣立ちを終えた揚雲雀
啼く声遥か鐘の音 見上ぐれば星朧

君の笑顔を護るのに 人の笑顔をあてがえば
僕が苦しむのみならず 君が悲しむことばかり

迷え この道は薮不知
来し方知らず 行方知らず
君のかわりに 僕の頬を
花びらが打つ 風 風
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