座礁人魚

陸にも上れず、王子とも結ばれず、歌も歌えず、うたかたと消えた
童話の人魚の最期は純白すぎる理想像

甘い海水、魔女の小瓶、最期はナイフを手にした人魚と
生まれてから今日までずっと手ぶらのあたしとは大違いさ

儚く生きる人魚のようなあの子に恋したきみとそれに気づいたあたし

泡にすらなれそうもない きみを愛した現実は
焼け爛れるような高熱に苦しむだけの病だった

さざ波のようなレースのカーテンの向こうに、透けて見えてしまった
秘密の小箱をひっそり一緒に開いて笑うふたりは

水底で転がる真珠のようさ あたしの心に刺さる赤い珊瑚の棘

人魚だって人に逢瀬叶うものと叶わないものがいる

泡にすらなれそうもない きみを愛した現実は
焼け爛れるような高熱に苦しむだけの病だった

泡にすらならなくてもいい
きみを愛した代償は焼け爛れるような幸福だ
蒸発していく座礁人魚
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